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ポニーテールを揺らしながら長い坂を降りていく。今日は雲が太陽を隠しているけれど、暑さはぜんぜん優しくなく、前髪が額に貼りついている。スカートからハンドタオルを出して額の汗を拭っても、ほほを伝う汗は絶えない。
「早く駅に行こう」
リュックが揺れる。その重さに肩が持っていかれる。
駅に隣接する商業施設が見えてきた。すると改札口近くの日影でスマホをいじっているユミカが見えた。
「ユミカ!」
「あ、サツキ。やっほ」
「やっほっほ」
私は笑顔を浮かべて駆け寄った。
「あっついね。どっか店で待ってても良かったのに」
「ね。暑い、ヤバい。早く行こう」
ユミカはスマホをトートバッグにしまうと、まじまじと私の格好を見た。ユミカはラフなシャツに短パンすがた。対して私はいつものセーラー服姿だった。
「あれ、今日サツキは学校だったの?」
「ううん。でもそういうことにしてる」
「どゆこと」
私は笑いながら「あとでね」と歩きはじめた。
「地下のスーパーでアイスでも買わない?」
ユミカは私の横に並ぶと「良いよ」とうなずいた。
「あ、でも文具屋行きたいな。先に寄っても良い?」
「オッケー、行こう」
とにかく涼みたい私は、率先して商業施設の入り口に駆けて行った。ユミカは笑って後をついてくる。二人で前後に並んでエスカレーターに乗った。
「ノートかなんか買うの?」
「ま、そうかな」
ユミカは目を細めてニッと笑うと「次の階ね」と言った。
文具屋に着くと、今度は私がユミカのうしろについて歩いた。ユミカはぐるっと周り始めた。ノートを買うと思っていたのに、ノートコーナーはスルー。その代わり割引された文具が置いてあるワゴンを見つけると、そこへ近寄っていった。
「何か良いのある?」
「あると良いな……」
ユミカがそう言って中を漁ると「あっ!」とうれしそうな声を上げた。
「マステ?」
「そう、マスキングテープ。この柄、シンプルだけどかわいいな」
「半額だし、良さそうだね」
「うん。これと……こっちも良いかな! あ、箔押し! キレイだなあ」
ユミカはテキパキとワゴンの中を簡単に整理しつつ、何本かのマスキングテープを手に取った。
「五本買っても三本分の値段。お得だね」
「そうだね。でも、そんなに買ってどうするの?」
「えへへ、ヒミツ」
ユミカはそう言うと、レジに行ってしまった。私はワゴンの中にまだあるマステをいくつか手に取った。三つほど吟味したうち、心が惹かれた一つだけ持ってレジへ。
「サツキも買うの?」
「うん。かわいいから」
勉強用のノートにでも貼ればかわいいかな、と思った。半額で百円でもお釣りが来た。
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