世界をコラージュる

9/11
前へ
/11ページ
次へ
「サツキ、コラージュ楽しいでしょ! よかったらシールおすそ分けするから、家でも作ってみてよ」  カラオケの終了時間がせまり、片づけをしていた私は、ユミカからクリアファイルに詰められた使いかけのシールを遠慮なくもらうことにした。 「無理強いするつもりはないんだけど、でも楽しんでくれたらうれしいし、たまにでも一緒に作ってくれたらうれしいな」  ユミカはそう言うとトートバッグを肩に背負って立ち上がった。 「今日はありがとう」 「いいえ」  カラオケ店を出ると、待ち合わせた駅前まで戻った。 「そう言えば、なんでサツキは今日、制服だったの?」 「ああ、これね」  私はクスクスと笑ってから答えた。 「今日の午前中、学校で希望者対象の補習があってさ。午前中はそれに行くんだって言って出てきたの。でもさ、なんかかったるくなって、途中で図書館前のバス停で降りちゃった。それから図書館で小説読んでた」 「サツキは自由だなあ」  ユミカはそう言って笑った。私は「ユミカだって午後の塾、サボったんでしょ」と言い返すと「言葉もないや」とまた彼女は笑う。 「ねえ、ユミカ」 「うん?」 「今も絵は描いてないの?」  私は恐る恐る尋ねた。けれどユミカは機嫌を損ねたりすることもなく、あっけらかんと「描いてるよ」と答えた。 「そう……え、描いてるの?」 「うん。まだスケッチとかだけど。夏休み入ったころからかな」  ユミカはそう言ってトートバッグから別のスケッチブックを取り出した。 「風景描写とか、人間観察? でスケッチ。人に見せるもんじゃないけど、サツキになら見せられるよ」  そのスケッチブックはえんぴつ一色なのに、いろんな風景がまるでカラーのように鮮やかに描かれていた。濃淡だけじゃない、彼女の描く世界が色を持っているのだ。 「ユミカの世界だ」 「でも、ここまで戻れたのはコラージュをはじめたからなんだ」 「コラージュ?」  ユミカはスケッチブックをしまいながらうなずいた。 「ずっと絵が描けなくて、勉強ばっかしてたら、なんかイライラしてきて。理由なんてわかんなかったんだけど、コラージュを知って、作りはじめてから分かったんだ。自分の世界を表現したかったんだな、って」  そう話すユミカはスッキリした笑顔を浮かべていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加