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「サツキ、コラージュ楽しいでしょ! よかったらシールおすそ分けするから、家でも作ってみてよ」
カラオケの終了時間がせまり、片づけをしていた私は、ユミカからクリアファイルに詰められた使いかけのシールを遠慮なくもらうことにした。
「無理強いするつもりはないんだけど、でも楽しんでくれたらうれしいし、たまにでも一緒に作ってくれたらうれしいな」
ユミカはそう言うとトートバッグを肩に背負って立ち上がった。
「今日はありがとう」
「いいえ」
カラオケ店を出ると、待ち合わせた駅前まで戻った。
「そう言えば、なんでサツキは今日、制服だったの?」
「ああ、これね」
私はクスクスと笑ってから答えた。
「今日の午前中、学校で希望者対象の補習があってさ。午前中はそれに行くんだって言って出てきたの。でもさ、なんかかったるくなって、途中で図書館前のバス停で降りちゃった。それから図書館で小説読んでた」
「サツキは自由だなあ」
ユミカはそう言って笑った。私は「ユミカだって午後の塾、サボったんでしょ」と言い返すと「言葉もないや」とまた彼女は笑う。
「ねえ、ユミカ」
「うん?」
「今も絵は描いてないの?」
私は恐る恐る尋ねた。けれどユミカは機嫌を損ねたりすることもなく、あっけらかんと「描いてるよ」と答えた。
「そう……え、描いてるの?」
「うん。まだスケッチとかだけど。夏休み入ったころからかな」
ユミカはそう言ってトートバッグから別のスケッチブックを取り出した。
「風景描写とか、人間観察? でスケッチ。人に見せるもんじゃないけど、サツキになら見せられるよ」
そのスケッチブックはえんぴつ一色なのに、いろんな風景がまるでカラーのように鮮やかに描かれていた。濃淡だけじゃない、彼女の描く世界が色を持っているのだ。
「ユミカの世界だ」
「でも、ここまで戻れたのはコラージュをはじめたからなんだ」
「コラージュ?」
ユミカはスケッチブックをしまいながらうなずいた。
「ずっと絵が描けなくて、勉強ばっかしてたら、なんかイライラしてきて。理由なんてわかんなかったんだけど、コラージュを知って、作りはじめてから分かったんだ。自分の世界を表現したかったんだな、って」
そう話すユミカはスッキリした笑顔を浮かべていた。
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