意外な兄の一面

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 できすぎた兄を持つ春佳はブラコンだ。  冬夜はへたな芸能人より顔立ちが整っているし、自慢の兄だ。  妹のひいき目をなくしても魅力的だし、世間的に見れば彼は恋愛経験が豊富な人に思われるだろう。  一緒に暮らしていたなら兄に彼女がいるか分かっただろうが、冬夜とは少し距離があるだけに、謎が多い。  毎日冬夜を見ていれば幻滅する点も出てくるのかもしれないが、今のところ彼は春佳の理想を保ったままだ。  だから春佳は兄に恋人がいないのか、ずっと気にしている。  冬夜に似合いの女性が現れたら、ブラコン妹として葛藤するだろうが、本当にいい人なら祝福したい。  そうして〝こじらせ妹〟から卒業し、自分も相手を見つけて幸せになりたいと願っていた。  なので冬夜に彼女がいないのか、知りたかったのだが――。 「春佳」  窘めるように少し強めに名前を呼ばれ、彼女はハッとして俯く。 「紹介できる人ができたらちゃんと言うから、あまり困らせるな」  呆れ顔で言われ、春佳はさすがにしつこくしすぎたと反省する。 「……ごめん」  謝ったあと、気まずいながらも朝食を終え、二人でキッチンに立って洗い物をしていた時だった。  春佳が軽くすすいで冬夜が食洗機に入れる役を担っていたが、なぜか指先がよく触れ合う。 (濡れるから触らないようにすればいいのに)  そう思って洗い物を終え、タオルで手を拭いていた時、背後に冬夜が立ちキッチン台に両手をついた。 (ん……?)  振り向くと兄の両腕に閉じ込められる体勢になっていて、ギョッとする。 「なに」  女性向け漫画にはこういうシーンがあるし、ドラマでもときめきシチュエーションとしてお馴染みの体勢だが、相手が兄では話が別だ。  冬夜には憧れているものの、実際にこうなるとどう反応すればいいのか分からない。  困惑していると、冬夜は妹を腕の中に囲ったままジッと見つめてくる。 (何がしたいの?)  兄を見つめると、彼もまた春佳をまっすぐ射貫くように見つめ返してきた。 「春佳、彼氏は?」  今度は逆に聞き返され、彼女は溜め息をつく。 「……いないの知ってるでしょ」  それも、半分は冬夜が原因だ。  完璧に近い兄がいるので、同じ歳の男の子は子供っぽく見え、欠点もすぐ目についてしまう。 『お兄ちゃんは年上だし、同い年の皆も成長したら相応に大人になるから、その時彼氏を作ればいい』  そう自分に言い聞かせても、大学の男友達と一緒にいると『お兄ちゃんはこんな事をしない』と無意識に比べてしまう自分がいた。  だから十九歳になる今も、春佳には恋人らしい存在がいない。  妹の返事を聞き、冬夜は微かに目を細める。 「彼氏ができたらこういうふうに密着するけど、お前大丈夫なのか?」  冬夜はからかうように言い、わざとゆっくりと春佳の頭を撫で、頬から顎にかけて指先を滑らせた。  その親指が唇に触れようとした時、春佳はパンッと兄の手を叩いていた。 「ふざけるのやめて!」  彼女は両手でドンッと兄の胸板を押し、荷物を置いてある客室に向かう。 (何あれ!? さっきの仕返しにしてもやり方がずるくない?)  兄に恋をするつもりはないが、冬夜の整った顔を間近に見ると胸がドキドキする。  幅の広い二重に、彫りの深い目元。意志の強そうな黒い目に、スッと通った鼻筋に形のいい唇。  潔癖そうなその唇が、誰かにキスしたのかと思うと胸が苦しくなる。
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