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扉が開いた瞬間、私は「うわっ!」と叫んでしまいました。
エレベーター内には誰もいません。
思わず後退りする私。おばあさんが乗っていたはずなのに?
エレベーターの扉が閉じられ、昇っていきます。
エレベーター内に、再びおばあさんの姿が現れました。先程と同じ位置で同じ体勢で。
「あっ、あっ」
言葉にならない悲鳴を上げてしまった私は、もと来た通路をダッシュ。
何が何だかわからないまま、階段を駆け上がり、気づいたら改札口を出て地上にいました。
見てしまった! 幽霊を!
本当に出るんだ!
その時の私は。
恐怖と裏腹に、なんとも言えない嬉しさが込み上げてきていたのです。
早く誰かに言いたい、言わなければ。そんな思いでいっぱいでした。
その一方で、幽霊の姿を思い出すと。寂しげな老婆の俯いた姿を思い出すと……。
誰かに嬉しげに話すのが不謹慎な気がして、ためらわれます。
いろんなことを考え、私はその目撃談を一週間ほど誰にも話しませんでした。
でも、今日ここで話してしまったから、この話を目に留めた人が、どこかで誰かに話してしまうのは仕方のないことです。
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