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策士な彼氏。 By 佐伯虎次郎
「 そろそろ2年..かぁ、 」
2年。
私と佐伯くんが付き合ってそろそろ2年が経とうとしている。
この時期は別に倦怠期が来るわけでもないし、私達はお互いの事をまだ知らないから知っていく段階だ。
でも、此処最近佐伯くんの私に対する態度が冷たいように感じる。
私が話しかけても、「 ごめんね。後にしてくれないかな? 」の一点張り。
流石に嫌になってきて、今はもう話しかけることはなくなった。
他の子には普通に笑いかけて話しているのに、なんで。
私と佐伯くんの間に、長い心の距離を感じる。
体育の時間、ペアを作ってそれぞれラリーの練習をすることになった。
佐伯くんは六角中のテニス部な為、男女ともに佐伯くんとペアになろうと必死に頼んでいた。
きっと私は、誘っても断られるんだろうな、なんて思いながら目を背けた。
ボーッとしていると、一人の男子が声を掛けてきた。
「 良かったら、一緒にやらない? 」
声を掛けてきたのは、学年一のイケメンとも言われている人だ。
どうせ、佐伯くんは他の人とやるんだろうななんて思い、「 良いよ。 」と私は言った。
「 ダーメ。 」
急に手が伸びてきて誰かの手が私の肩に乗った。
声と、肌の色で分かった、佐伯くんだ。
後ろを振り向くと、私の事を見ている佐伯くんがいた。
他の子とやるんじゃなかったのか?と、思い聞いてみた。
「 な、んで...他の子とやるんでしょ? 」
「 ん?何でそう思ったの? 」
「 だって..他の子に、いっぱい誘われてたし...っ、 」
あぁ、情けない。
別に泣かなくていいのに泣きそうになってしまう。
どんどん目に涙が溜まってきて、零れないように目元に力を入れることだけで精一杯だ。
泣きそうになる私の顔を見た佐伯くんは、少し笑って言った。
「 泣かないで?可愛い顔が台無しだよ? 」
優しく頬を撫でては、そっと手を繋いで、「 二人きりになれるとこ行こっか 」と私と佐伯くんは体育館裏へ、そっと歩き出した。
「 此処なら大丈夫そうだね、 」
「 ....、 」
上手く言葉が出せない。
久しぶりに二人きりになれて嬉しいはずなのに、何故か苦しい。
久しぶりに話せるのに紡げる言葉が出てこない。
必死に今出せる言葉を探しても見つからない。
そんな自分に嫌気が差して、もっと涙が溜まっていってしまう。
「 ね、〇〇ちゃん 」
「 ん...っ、? 」
「 そんなに溜め込まないで、泣きたかったら泣いて良いんだよ? 」
何それ。
こんな顔にさせたのは、佐伯くんなのに今はそんな事はどうでもいいくらいに涙が止まらない。
そんな私に佐伯くんは、そっと寄り添ってくれた。
その優しさが今は私をすごく苦しめる。
「 ...優しくしないでよ、っ 」
「 嫌だ。 」
「 何で..っ、何でよ...っ 」
「 〇〇ちゃんは俺の彼女だもん、 」
「 ..っ、いつもみたいに...優しくしないで、そっちの方が..楽だからっ、 」
弱音なんて吐きたくなかった。
でも今は、泊しかなかったんだ。
今まで沢山辛い思いをしてきたのにあんな優しい一言で全てが解決できるくらいに私の心は強くない。
「 ....〇〇ちゃん、 」
佐伯くんは私の名前を呼んで、そっと私の顔を佐伯くんの方に向けた。
その目は、とても綺麗で濁り一つない目だった。
最初はこんな綺麗な目で私をずっと見詰めてたななんて思い出も蘇ってきてしまい、より涙が出てきてしまった。
佐伯くんは焦る様子は見せずに、そっと私を抱き締めてくれた。
「 佐伯くん..、 」
「 御免ね、〇〇ちゃんがこんな辛い思いしてるとは思ってなくて.. 」
「 最初は嫉妬させようと思ってやってたんだけど...っ、ほんと御免っ 」
「 でも、〇〇ちゃんは御免で解決できないくらいに辛い思いしてるよね..っ 」
佐伯くんは何度も何度も、謝りながら決して離そうとはしなかった。
その温もりが異様に心地よくて、段々と涙が引っ込んでいく感じがする。
「 あれ?涙、出なくなったね? 」
「 ほんとだ..、有難う佐伯くん 」
「 御礼なんていらないよ、〇〇ちゃんの笑顔が見れればそれでいいから 」
久しぶりに抱き締めてもらえて、遂、口元が緩んでいたらしい。
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