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大人になった自分はこの世界のことを何でも知っているつもりでいた。
知らない情報が有ればネットで検索すればいい。
分からない用語が有ればとにかくググれば解決。
お金を掛けなくとも仮想空間で世界旅行も出来る。
行けない場所はない。ノーボーダーの世界。
そう思っていた。
いつも通りVRゴーグル外そうとしたそんな時だった。
突然一通のメッセージが入ってきた。
「誰だ?」
送り主の名前には見覚えが無かった。
一旦ゴーグルを外し、念のため携帯の登録者のアドレスを確認した。
「やっぱり知らない。スパムか?」
いつも通り消そうとした。
しかし、題名を見て私は消去のボタンを押すことを躊躇った。
━━南極の向こう側を見たことはあるか?━━
by Adams
「南極の向こう側? そんなのググれば出てくるだろう」
…………無い。
「いや、嘘だろう。南極調査隊とかあるじゃん」
しらせ
南極観測船の名前だ。子供の頃に両親に連れて行かれて見学したことがある。今でも現役なのかは分からないが、そう当時はまだ現役で活躍をしていた。一定の期間だけ一般人にも公開され、時期が来ると現役で南極へと出航すると館内で貰ったパンフレットに書かれていた。
だからてっきり、既に人類は南極の向こう側へ辿り着いているとおもった。地球の形から考えれば、南極の向こう側は南極のもう一つの端へ到達し、そしてそこからはその場所から一番近い大陸が見えるだけだろう。
自分が知っている国と言えばニュージーランドくらいか。そう言えば、ニュージーランドの最南端へ行った時に南極が見えたっけ。
まあ、バーチャルでだけどな。
でも再現度は98パーセントと説明があったし、現実と然程変わらないだろう。
返信が出来そうなので、メールを開くとメッセージを送ってみた。
━━南極に隣接してる国だろ? それよりもそっちは見たのか?
by Minato Shinji
ピコン
まるでこちらの返信を待っていたかのように、スグに返答が来た。
━━まだ見てはいない。ただシンジ、君の答えは正しくない。南極の向こう側は、私達の知らない世界だ。
http://XXXXXXXXXXX
なんだこれは? フィッシングサイトか何かか?
俺はURLの危険性を調べるサイトでそれを検索し、アクセス先には危険性が無いことが分かった。
「なんだよ南極条約って?」
見慣れた南極の文字なのに、条約が追加されることでそれは俺の知らないものとなる。
俺は日本語で書かれたその説明を読んだあと、公式のサイトをググった。
━Antarctica Treaty
1959年11月1日にワシントンで12か国合意のもとサインをした条約。
1.南極は平和目的にのみ使用されるものとする
2.南極の科学的操作の自由とその目的に向けた協力の継続
3.南極での科学的観測と結果は交換でき、自由に利用できる
「別に南極上空を飛んで行けないだなんて、何処にも書かれていないんだけど?」
俺がそれを口にしたのは訳があった。
それは送り主のメッセージに"南極の空を飛ぶことは認めれていない""空から南極の向こう側へ行くことは許されていない"などと行った事が書かれていたからだ。
送り主は、陰謀論者かなにかだろう。
俺はその時はそう思ったいた。
いや、実際その相手に会うまでは、そう思い続けていたが正しいだろう。
何度もメールをやり取りしているうちに、とても興味の湧く内容が書かれていた。
━君は信用が出来る人間だ。話し合った結果、君は向こう側を見る資格者と認められた。
もし、君が私を信用することが出来るなら、費用は自己負担でインバーカーギルまで来てくれ。期限は今日のメールの日付から3ヶ月間だ。南極の向こう側を一緒に越えてみないか?
これは決して君を揶揄うために送ったものじゃない。
私達は本気だ。
君と一緒に最南端のハンバーガーを食べる事を楽しみにしている。
アダムス
驚いたっ!?
アダムスと言う名のメールでやり取りしていた相手が、私に南極を一緒に越える計画を提案してきたのだ。しかも私達と言う事は、どうやら何かグループのようだ。
━インバーカーギル
そこは俺がかつて仮想空間の旅行で訪れた最南端の町だ。でも、本当の足でそこへ行った事は一度もない。
俺はネットでこの町の情報を調べた。
インバーカーギル
ニュージーランドという国の南島にある最南端の町。南極に一番近い街。かつてスコットランド人が南下し、この街を作ったという。
なるほど、あの有名なハンバーガーショップが此処にもあるのか。だからアダムスは俺に一緒にハンバーガーを食べようって誘って来たんだな。
面白いっ!?
特に某有名店のバーガーが好きなわけじゃない。が、急に食べたくなって来た。
いや、まだ会ったことも無い友人と一緒にハンバーガーを頬張る自分を想像したら、居ても立っても居られなくなったのだ。
俺はすぐさま机の中に眠っているだろうパスポートを探しはじめた。
「おっかしーな、確か此処にいれたはずじゃ?」
人間の記憶とは兎に角曖昧だ。
確信ではないが、入れた筈の引き出しを何度も探しても出て来ない。
「あれ? なんでこんなところに」
パスポートはなんと旅行用のトランクに入っていた。失くさないようにと用心して入れていたのかもしれない。
たしか有効期限は10年、もう切れているだろうか?何時更新したのかも覚えてはいない。
「良かった、まだどうやら1年間有効のようだ」
こうしちゃいられない。
善は急げではないが、俺は自分のスケジュールを確認する。
と言っても、俺は雇われ社員の身。
急に会社を辞めたとしても、特に困らないだろう。
まあ、ちくちく文句は言われるだろうが。
電話を掛けると予想通りブツブツと文句を言われたが、俺がいち派遣社員と言う事もあり、言いたい事を彼は言うと契約終了となった。
次は飛行機のチケットだ。
俺はネットで検索をかけ、該当の項目をクリックしようとマウスを動かしたが、それを止めた。
「せっかくだ、自分の足で旅行会社に行って、航空チケットを取ろう」
もう仮想空間を頼るのは止めだ。
俺は自分の足で用意できるものは用意しようと決めた。
俺はVRゴーグルをダストボックスへと投げ入れると、駆け出しでアパートを飛び出した。
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