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プロローグ
その日、私は初めて『天使』というものを見た。
きれいな白い羽に、頭上に浮かぶ金色の輪。
白髪で青い瞳の、白いジャケットを着ていて。
『天使』の名に相応しい、そんな姿の『生き物』を見た。
「君はもうそろそろ死んでしまうようだね」
目の前にいる天使は微笑んでそう言った。
「……そんなのわかってるよ」
私は昔から病弱だった。
だから、もう死ぬんだってくらいわかってた。
「怖くないの?」
「……死ぬのが?」
「そう」
私はしばらく考えて答えた。
「……怖くはないよ
でも……」
私は続けた。
「忘れられるのが、一番怖いと思う」
春風で桜が靡く。
目の前の天使は「……そうだね」と答えた。
「忘れられるのは、とても怖いものだよ」
窓の外を見ながら、私は言った。
「……ねぇ、天使さん」
「何かな?」
「……この檻から、いつか出れるのかな」
「……出てみたい?」
天使はほくそ笑んだ。
「……それなら、いい提案をしてあげよう」
「えっ?」
「……僕が君を飛べるようにしてあげるよ」
「飛べるように……?」
「うん」
「そ、そんなの冗談……でしょう?」
天使は顔色を一切変えない。
どうやら本当のようだ。
「さぁ、この手を取って」
私は、震える手で。
ーーその手を取った。
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