過去

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過去

 あれは今から三年前。 私は倒れてまた、入院することになった。 昔から体が弱かった私は、入退院をよく繰り返していた。 「……はぁ」 白い檻の中。 何もなくてつまらない場所。 そんな場所に囚われたまま、私はいつも窓の外を見つめていた。  病院の中庭には、いつも大きな木があった。 桜が咲いたり、緑がいっぱいになったり、枯れ葉で彩られたり。 「よっ」 そんな木を見ていると、病室の扉が開いた。 「……今日も来てくれたんだ」 緑のパーカーに黒いジャンパーを着た少年が、手を振ってこちらに近づいてきた。 「当たり前だろ 俺はお前の親友なんだから」 彼の名前は板橋 哀翔(いたばし あいと)。 前回入院したとき、たまたま病院の広場で出会った親友。 「そうだね、親友くん」 私は笑ってそう返した。 彼は少し照れくさそうにしていたが、嬉しそうだった。 「今日は何して遊ぶ?」 私は彼にそう聞いた。 彼の持ってくるゲームはいつも斬新で、面白くて。 「なんでそんなものも知ってるの?」というのも知っていて。 彼との遊びが、いつの間にか心の拠り所になっていた。 「今日はなー、ドットアンドボックス!」 「なぁに、それ」 彼は紙を机においたあと、説明をし始めた。 「ここに点があるだろ?」 「うん」 「この点を交互に結んでいって、四角を作っていくんだ」 「それで?」 「四角が大量にできたほうが勝ち!」 「シンプルだね」 「シンプル・イズ・ベストって言葉があるだろ?」 「そうだね」 私は笑って続けた。 「じゃあ、始めようか」 初戦は私の勝ちだった。 だが、彼の負けず嫌いが発動したのか、戦いは延長線になり……。 最終的に、面会最終時刻まで遊ぶことになった。 「美姫(みき)ちゃーんって、今日もいたのね 哀翔くん」 看護師の沙友理(さゆり)さんはふふっと笑った。 「あ、すいません…… 今日はその、軽く遊ぶつもりが……」 彼はペコリと謝る。 「いいのよ 美姫ちゃん、哀翔くんと遊んでるとき、楽しそうだもの」 「……楽しそう……」 私、そんな顔してたんだ。 驚く私に、彼はニコッと笑ってみせた。 「楽しいに決まってるだろ! なっ、親友!」 「……! うん!」 私はその日、初めて親友というものを手に入れた気がした。
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