8.遠い記憶

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学校に着き、靴箱の前で上靴に履き替えていると、鈴音は春の姿を見つけた。なんとなく気まずさを感じたが、春の方から声をかけてきた。 「おはよう」 春が微笑みながらこちらを見つめると、鈴音の心臓が一瞬だけ跳ねた。少しの沈黙のあと、鈴音は話しかける。 「おはよう…。昨日はどうしたの…?」 彼は目を伏せながら静かに答えた。 「あぁ、ちょっと家の用事でね。親が色々と家のこと手伝えってうるさくて」 何かを隠しているような物言いだが、鈴音は深くは触れなかった。 「そっか、それならよかった!体調でも悪くなったのかと思った」 「身体は見ての通りピンピンしてるよ。それより…祭りの巫女をやることになったってほんと?」 「あれ、知ってたんだ!なんかなりゆきで…。あはは、私に務まるのかな」 「こんな田舎じゃ噂回るの早いからね。もうみんな知ってるんじゃない?…まぁ、頑張ってみなよ」 「うん…ありがとう」 「じゃあ、僕ちょっと職員室行かないとダメだから先行くね」 春はそう言い残し、廊下の向こうへと歩き去った。鈴音はその背中を見送った。 すると、横から鋭い視線を感じ、振り向くと従姉妹の朱音が立っていた。彼女は腕を組み、無表情な顔で鈴音を見つめている。 「ちょっと、鈴音」 「…朱音」 「今、春くんと何話してたの?」 その問いかけに鈴音は戸惑いを覚えたが、正直に答えることにした。 「別に…大した話じゃないけど…」 「ふぅん、そう」 朱音はわざとらしく頷きながら、鈴音に鋭い視線を向ける。 「…巫女やるんだってね」 その言葉に鈴音は思わず息を飲んだ。朱音の態度には、ただの好奇心とは違う、鋭く刺すような棘が含まれていた。 「私は、あんたが祭りの巫女なんて大それたことやるの、正直言って疑問だけど?」 「えっ…?」 「あんたみたいな外モンがなんでそんな大役するのかわからない。もし失敗でもしたら、みんながどう思うか分かってるの?…うちの家にも迷惑かかるんだけど」 朱音の言葉に鈴音は怒りが芽生えたが、何も言えなかった。確かに自信があるわけでもなく、巫女として本当にふさわしいのか分からないまま引き受けた役目だったからだ。 「あんたのこと、みんな特別扱いしてるのが気に入らないのよ」 朱音は冷たい視線を投げかけた。 「そんなの、私だってわかんないよ。そもそも特別扱いとか別にされてないし、急に突っかかってきてそんなこと言いにきたの?」 鈴音は思わず反発してしまった。 「なによ、本当のことじゃない。…私にまで迷惑かけないでね」 朱音はそう言うと、その場を立ち去った。鈴音はただ立ち尽くし、自分の中に広がる苛立ちと不安を感じた。
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