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8.遠い記憶
薄暗い座敷牢を照らすのは、蝋燭の明かりだけ。
中には幼い少女がただ一人。
何もない空間で、少女はただ刻が過ぎるのを待つだけだった。
こんな日々が永遠に続くのかと思っていた、ある時。
「君は誰…?」
無機質な座敷牢に、少女と同い年ほどの幼い少年の声が響いた。
久しく人と会話をしていなかったせいか、少女は声がうまく出せなかった。
「ス…ズ…」
か細く、消え入りそうな声で少女は答えた。
誰かと会話したのは、一体いつぶりだろうか。
毎日、身の回りの世話をしてくれる人は来るが、会話などしたことはなかった。
いつも綺麗な着物を着せられ、食事が運ばれ、身体を濡れた手拭で拭かれ、髪も綺麗に梳かされる。
まるで人形のような生活。
「スズ?…君はどうしてこんなところにいるの?」
少年の問いに、少女は答えられなかった。
「ねえ…どうして?」
「あ…たし…は…」
ゆっくり言葉を紡ごうとするが、うまく喋れない。
心臓が高鳴り、手が震えた。
背中に冷たい汗が伝う。
ゆっくり振り返ると、鈴の音が鳴った。
「…っ!」
少年は驚いたように目を丸くした。
「瞳が…光って……」
嗚呼、見られてしまった。
「あたし…人間じゃ…ないの…」
少女の瞳は黄金色に妖しく光り、薄暗い部屋でひときわ異様な存在感を放っていた。
少年は足がすくんだのか、止まったまま動けないでいた。
時が止まったかのように感じた、その瞬間。
「…き…れい…」
息を呑むように、少年は呟いた。
少女は気味悪がられて罵声を浴びせられることを覚悟していた。
今までずっとそうだった。
罵声を浴びせられ、殴られ、蹴られてきた。
この牢に入れられてからは今までの生活とは一転し、暴力を振るわれることはなくなったが、待っていたのはお飾りの人形のような日々。
自由などなく、ただ刻が過ぎ、死を待つだけの生活。
その生活が変わったのは、きっとこの時から。
一筋の涙が頬を伝った。
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