7人が本棚に入れています
本棚に追加
9.共鳴する者
物陰から鈴音の様子を眺める一人の青年がいた。風早奏(かぜはや かなで)。鈴音の隣のクラスにいる生徒だ。
長身でスラリとした体つき、明るい金髪に前髪を無造作に上げた、どこか鋭さを感じさせる容姿を持つ青年だった。奏は屋上の扉を開けた瞬間、先客がいることに気づき、足を止めた。
そこには、風に髪を揺らしながら静かに手帳を抱きしめるように見つめる鈴音の姿があった。声をかけるのをためらい、奏は思わずその場で隠れるようにして様子をうかがった。
鈴音は手帳を大事そうに抱え、まるで遠くにいる誰かと対話しているかのように静かに目を閉じていた。その姿が、なぜか奏の目を離せなくさせた。
(なんだこいつ…)
心の中でそう呟きながらも、奏は鈴音の姿に不思議なものを感じた。
隣のクラスに来た転校生ということしか知らないはずの彼女が、どこか特別な存在に見えてしまう。手帳にそっと触れるたびに、奏の心の奥にも小さなさざ波が広がっていくようだった。
しかし、ふとした瞬間、奏の感覚が鋭く研ぎ澄まされた。屋上に漂う空気に異様な気配が混ざり込んでいることに気づいたのだ。風の流れがわずかに乱れ、冷たい何かが近づいてくるのを感じた。
(この気配…!)
鈴音はその異様な気配にまるで気づいていないようで、手帳を見つめたままだ。奏は緊張を覚え、しっかりと構えた。
薄暗い影が屋上の端からゆらりと現れ、鈴音に向かってゆっくりと近づいてくる。奏は意識を集中させ、その妖気を断ち切ろうとした。
手を軽く振り上げると、一陣の風が鈴音と妖の間を走り抜け、妖の気配を吹き払った。
鈴音は突然の風に驚き、顔を上げて辺りを見渡した。奏は物陰に身を隠したまま、鈴音が無事であることを確認すると、ほっと安堵の息をついた。
(危なかった…)
奏は、鈴音を守ろうとする自分の行動に少し戸惑いを覚えながらも、彼女の存在に何か特別なものを感じずにはいられなかった。
最初のコメントを投稿しよう!