目覚める運命

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目覚める運命

3 鈴音の中で何かが変わり始めているのがわかった。 そして、鈴音だけではなくそれは周りも変わっていく感覚だった。 鈴音は、いつものように学校へ向かう道を歩いていた。朝の涼しい風が吹き、木々のざわめきが心地よく響いている。しかし、今日に限ってはどこか不安が胸の奥に残っていた。 「昨日のことが気になってるのかも…」 紬の日記で見た不思議な光景、千鶴子から聞いた『大きな災い』の話。鈴音の心は落ち着かないままだった。森の近くを通り過ぎるとき、何か視線を感じて立ち止まった。 「…なんだろう?」 辺りを見回しても誰もいない。だが、空気が冷たくなり、背中に悪寒が走る。突然、森の中から低い唸り声が聞こえてきた。鈴音は恐る恐るその方向を見つめたが、そこには普通では見えないものがいた。 「なに…あれ…?」 森の中から黒い霧のような存在がゆっくりと現れ、形を変えながらこちらに近づいてくる。鈴音は足がすくみ、動けなくなってしまった。黒い影がどんどん迫ってきて、その不気味な気配に息苦しさを感じ始めた。 「動けない…」 恐怖で体が硬直し、逃げることができない。黒い影はまるで鈴音を狙っているかのように徐々に近づいてくる。鈴音は目をぎゅっと閉じ、どうにかしてこの場を逃れたいと強く願った。 そのとき、風が一気に強く吹き、目の前にあった黒い影が一瞬で吹き飛ばされた。 「大丈夫?」 鈴音が目を開けると、そこには春が立っていた。彼の柔らかい黒髪が風に揺れ、真剣な眼差しで鈴音を見つめている。彼は冷静に、そして優しく手を差し出した。 「春…?」 鈴音は困惑しながらも、震える手で春の手を握った。彼の手は冷たく、まるで水が流れているような感覚が伝わってくる。しかし、その冷たさは心地よく、鈴音の緊張を和らげた。 「今の、見えた?」 春は森の方を見つめながら、低い声で言った。鈴音は頷くと、彼もまたその黒い影を見ていたことに気づいた。 「…あれ、何?」 「妖だよ。普通の人には見えないけど、僕たちには見える」 「妖…?」 春の言葉に鈴音は驚いた。彼は自分と同じように、この異様な存在が見えている。彼女の中にある巫女の血筋が目覚めつつあると同時に、春もまた何か特別な力を持っているのだろうか。 「感じるでしょ?この禍々しいほどの瘴気を」 「うん…息苦しいような、不思議な感覚」 「最近悪さをする奴らが増えてきたんだ…徐々に冥龍の封印の力が弱くなってきている」 鈴音はより一層不安を感じた。 やっぱり「大きな災い」は起きようとしているんだと感じた。 「あなたは一体何者なの?」 鈴音は震える声で聞いた。 「僕は…生まれつき水を操る力を持っている。悪しきものを祓う為の力だ。この町にはこのような力を持つものが他にもいるはずだ」 「悪しきものを祓う力…あなたも私と一緒なの?」 鈴音は目を丸くした。 「さぁ、、どうだろうね。厳密に言うと一緒ではないよ。ただこの町を救いたいと思う気持ちは一緒かもしれないけど」 「なぜ私のことを知ってるの…?私たち何処かで会ったことあるの?」 「…君が、思い出すまで待ってるよ」 春は落ち着いた口調でそう答えた。 「おばあちゃんが言っていた…私の力のこと…まだ何が何だかわからないの…」 「まず本来の力を目覚めさせることが大事だ。大丈夫、ゆっくり落ち着いて。君は必ず僕が助けるから」 春は優しく微笑んだ。 春の琥珀色の瞳は深く、優しく鈴音を包み込んだ。 その言葉を聞いて鈴音は胸が暖かくなるのを感じた。まだ少ししか会ったことないのに、彼の存在はなぜこんなに落ち着くのだろうか。 「さ、学校に行こう。もうすぐ始業の時間だよ」 「その格好…もしかして春も同じ高校なの!?」 「あれ、言ってなかったっけ?昨日はサボったけどね」 えー!と声を上げながら二人で森を後にした。 鈴音は、まだ全てを理解しているわけではないが、少しずつ自分が何をしなければならないのかが見え始めていた。そして、春がそばにいることで、鈴音はこの先に待ち受ける運命に立ち向かう勇気を持つことができるように感じていた。
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