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琥珀色の記憶
鈴音は、春が同じクラスにいることに驚きを隠せなかった。授業中、何度も彼に視線を送ってしまう。落ち着いた表情、時折優しく笑う口元、そして琥珀色の瞳――どこか懐かしいと感じるが、なぜそう思うのかはわからなかった。
「君が僕のことを思い出せる時がきたら、すべてを話すよ。でも今は…まだその時じゃない。」
学校への道で春はそう言った。彼は何かを知っている。鈴音は、早く力を覚醒させなければならないと、心の中で強く誓った。しかし、なぜだろう――鈴音もまた、春を知っているような感覚があった。どこか遠い記憶の奥底で眠っているような、不思議な感覚だ。
(力を覚醒させるには…どうすればいいんだろう?)
鈴音は悩みながら頭を抱え、昼休みになった。ユキが作ってくれたお弁当を取り出そうとすると、春が声をかけてきた。
「鈴音、一緒に食べない?」
驚いたが、春の柔らかな笑顔に誘われて、自然と「うん…」と返事をしていた。
二人は屋上へと向かった。普段は閉じられているはずだが、今は誰かが壊した鍵のおかげで自由に出入りできるようだった。
「鈴音のお弁当、美味しそうだね」
春は彼女のお弁当に目を向け、優しく声をかけた。
「ありがとう。家のことお手伝いしてくれてるユキさんが作ってくれてるの。お母さんみたいに優しくしてくれて…」
照れくさそうに笑う鈴音を、春は穏やかに見つめた。
「それはよかったね。…お母さんのこと、まだ思い出す?」
「たまにね。体が弱かったのに、一生懸命私を育ててくれた。たった一人の家族だったの…母を亡くして、この町に来てから、色んなことが一気に起こって…」
鈴音は涙が頬を伝うのを感じた。気づかないうちに、彼女は感情を抑えきれなくなっていた。
「鈴音、泣かないで。大丈夫だよ、君は強いから。…きっと、立ち向かえるはずだ」
春は彼女の頭にそっと手を置いた。
その瞬間、不思議な感覚が鈴音を包み込んだ。まるで春を通じて何か強い力が伝わってくるかのように――。
「春…?」
鈴音は涙を拭いながら春を見上げた。彼の瞳はいつも通り優しかったが、その奥に、隠された冷たさも感じた。
「ねぇ、春。…冥龍って何?大きな災いって何のこと…?」
「冥龍は邪悪の化身だよ。君はそれを自ら感じ、気付かないといけない」
春は手を差し出した。鈴音は戸惑いながらもその手に触れた。次の瞬間、電流が走ったかのような衝撃が彼女を襲い、時が止まったように様々な光景が頭の中に流れ込んできた。
――深い闇の中、暴れ狂う龍。草木が枯れ、空気が凍りつくような光景。
息苦しさを感じ、鈴音はすぐに手を引いた。
「何今の…?怖い……」
「それが、君がこれから向き合う世界の一部だよ。冥龍はただの伝説じゃない。君の存在が、その災いを封じる鍵なんだ」
鈴音の肩は震えていた。恐怖と戸惑いが押し寄せ、息を整えることさえ難しく感じた。
「君は巫女としての運命に逆らうことはできないんだ。だけど…その運命に立ち向かう力は、君自身が持っている」
春の言葉に、鈴音は深い不安と同時に、自分の中で目覚めつつある力を感じていた。
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