7.廻る運命

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7.廻る運命

鈴音は様々な感情が自分の中で交差する中、学校へ向かった。昨日聞いた雨宮家のことや祭りでの神楽のことなど頭がいっぱいになりそうだ。 なぜか昨日千鶴子には春の能力のことは言えなかった。雨宮家の噂はきっと本当なのだろう。春は何かを隠している気がする。 正直、ほんの少し前まではこの現状に現実味を帯びていなかった。しかし一気に事は進み、今となったら、かつての平穏が懐かしい気もする。 学校に着くとそこに春の姿はなく、鈴音は少し胸を撫で下ろした。どんな顔をして会っていいのかわからなかった。春自身のことを危ない存在だと感じたことはなかったが、千鶴子の話が本当ならきっとなにか隠していることはあるかもしれない。 鈴音は春がいないとクラスで話す人はいなかった。学校側が気を遣ってか、朱莉とは違うクラスだ。それはそれで都合が良いと鈴音は気にはしてなかった。 都会から来た転校生というだけで、彼女は周りの視線を感じていた。ひそひそとしたささやき声が耳に残る。彼女は机に座りながら、教室の窓から外の風景をぼんやりと眺めていた。 「鈴音ちゃんだっけ…東京から来たんよね?」 不意にかけられた声に、鈴音はハッと我に返る。振り向くと、目の前には肩上で切りそろえられたぱっつんの紫がかった髪が印象的な女の子が立っていた。彼女のはっきりとした目と優しい微笑みが、鈴音の緊張を少しだけ和らげた。 「あ、うん…!この町には来たばっかりで…よろしくね」と鈴音は少し照れくさそうに返事をした。 「私は鳴川美月!美月って呼んでー!よろしく!」 美月はニコッと笑い、明るく元気な声で自己紹介をする。その笑顔はまるで太陽のように温かく、鈴音の心に光を差し込んだ。これまでの気まずさが、一瞬だけ吹き飛んだように感じる。 「ねぇ、東京ってどんなところ?私、行ったことなくて…すっごい憧れてるんだ!」 美月は目を輝かせながら、興味津々に鈴音に問いかける。その瞳は好奇心でいっぱいだ。 鈴音は少し考えた後、答えた。 「うーん…人が多くて、高いビルもいっぱいあって、オシャレな人も多いよ」 「わぁ、いいな~!私もいつか行ってみたいなぁ!」 美月は手を握りしめ、まるで夢を語るように声を弾ませる。 「でも、この町も空気が澄んでて、景色も綺麗だし、いいところだと思うよ」 鈴音はそう言いながら、窓の外に広がる緑豊かな風景に目を向けた。 「えー、でも都会に比べたら全然だよ!カフェもオシャレなお店もないし、コンビニだって遠いしさ…。やっぱり都会って憧れるよねぇ」 美月は少し拗ねたように肩をすくめて笑う。 「あはは…確かに色々揃ってはいるけど…でも、私はこの町の静かなところ、結構気に入ってるよ」 鈴音は少しだけ微笑んだ。この町の静けさが、自分を落ち着かせてくれる気がしていた。 「まあ、静かすぎるくらいだけどね。でも、鈴音ちゃんは引っ越してきたばっかりで、あんまりこの辺りのこと知らないでしょ?よかったら今度、私が案内してあげるよ!」 「本当?」鈴音は少し驚いた顔をしながらも、その申し出に心が温かくなるのを感じた。 「もちろん!任せて!私、この町で生まれ育ったからさ、どこに何があるか、ばっちりわかるんだよ!」 美月は自信満々に胸を張って答えた。 鈴音は、彼女のその無邪気な笑顔に思わず釣られるように微笑んだ。美月の親しげな態度に、少しずつ心を開いていく自分を感じた。誰かと仲良くなることが、こんなにも温かいものだとは、久しく忘れていた。 「じゃあ、今度お願いしようかな」 鈴音は少し声を震わせながらも、心の中で美月の言葉に感謝していた。新しい場所で不安を感じつつも少しずつ自分の居場所が見つかるかもしれない。 「うん、任せて!」 その声と共にホームルームの始まるチャイムが鳴り響き、その音と共にみんなそれぞれの席に着いた。 ホームルームが始まっても春は姿を現さなかった。 その日は何事もなく授業は進み、気がつくともう夕暮れだった。
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