7.廻る運命

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鈴音は学校を出た後、神社へと足を向けた。 夕暮れの光が彼女の背中を照らし、長い影を地面に落としている。歩みを進めるにつれ、町の喧騒は次第に遠のき、木々の葉擦れの音が次第に耳に届くようになった。 神社の奥の細い石畳の道が続くその先に、神楽殿が静かに佇んでいるのが見える。 鈴音は心を落ち着けるように一息つくと、ゆっくりと歩を進めた。木漏れ日が揺れる中、朱塗りの柱がその荘厳な姿を徐々に露わにしてきた。まるで鈴音を見守るかのように、静かにそこに立っている。 神楽殿へと続く道を一歩一歩踏みしめ、鈴音はさらに近づいていく。周囲はひっそりとしており、ただ風が鈴音の髪を優しく揺らすのみ。神楽殿に近づくたびに、その場の神聖な空気が鈴音を包み込むように感じられた。 鈴音は祭りでの神楽舞の練習のために、また新たな一歩を踏み出す準備をしながら、神楽殿の正面に立った。 正直やるとは言ったものの、舞などやったこともなく、踊りのセンスなど無いに等しい。人前で披露するには些か無理があるのではないかという別の不安も抱いていた。 神楽殿へと到着すると千鶴子が待ち構えており、早々に練習が行われた。 手に神楽鈴を握りしめ、鈴の小さな玉が振れるたびに、かすかな音が響き、その音が彼女の緊張感をさらに際立たせていた。もう片方の手には扇を持ち、千鶴子の動きに合わせて踊るが鈴音の動きはどこか固かった。 「鈴音ちゃんそんなにぎこちない動きしてたら、神様に笑われてまうで。リラックスして、ゆっくり息を吸ってからやってみ。」 千鶴子はあははと笑いながらそう言った。 鈴音は深く息を吸い込んでから神楽鈴を軽く振った。鈴の音が高く澄んだ音色を響かせたが、鈴音の足はまだぎこちなく、右足を出すタイミングを間違え、扇を振り下ろすのも遅れてしまう。 「あっ…! す、すみません!」 「大丈夫、そんなすぐ上手にできるわけないから。最初はな、みんなそんなもんや。もうちょっとゆっくりやってみ。」 千鶴子は微笑みながら、鈴音に再度挑戦するよう促す。鈴音は再び神楽鈴を持ち、今度は慎重に動きを始める。神楽鈴を振りながら、足を滑らせるように前へ進むが、どこかぎこちない。それでも、少しずつ動きに慣れようと、何度も繰り返していた。 「そうそう、ええ感じ。動きが少し滑らかになってきたな。あとは、その神楽鈴の音に気持ちを乗せて、神様に祈りを捧げるつもりで舞ってみな」 鈴音は千鶴子の言葉に頷き、今度は鈴の音に意識を集中させた。神楽鈴が軽やかに響くたびに、鈴音は足元の緊張をほぐしながら動きを続けた。鈴の音が風に乗り、扇と共に舞うような感覚が少しずつ鈴音の体に馴染んでいく。 「よし、その調子や。まだまだぎこちないけど、だんだん体が覚えてくるはずや」 鈴音は一息つきながら、再び神楽鈴を握り直した。まだまだ動きは不安定だが、少しずつ練習を重ねていくのだった。
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