初恋までの距離

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 学校からの帰り道、少し先にランドセルを背負った小柄な背中が見えた。 「(なつ)くん」  ぴょこん、とうさぎみたいに跳ねて、彼が嬉しそうに振り返る。私が手にしたカードを見せると、彼はさらに目をきらきらさせた。チョコレート菓子のオマケには、今や国民的な人気となったアニメキャラが描かれている。彼もこのカードを集めていることを知って、私は友達から手に入れたのだ。 「これ、いる?」  吸い寄せられるように手を伸ばしかけた彼が、ふっと真顔に戻った。両手でハーフパンツの端を掴み、もじもじしながら地面を見つめている。 「夏くん?」 「俺はっ、もうコドモじゃないから」 「え。でも私、同級生にもらったんだよ」 「えっ」  彼は驚いて顔を上げた。 「高校生だって夢中になるんだから、そんなの気にしないで、好きなもの集めればいいよ」 「…うん。ありがとう」  ほっとしたように息をついて、彼は私からカードを受け取った。家が近いのでそのまま二人で並んで歩き出した。幼なじみの彼とは、小さい頃に近所の子たちと入り交じってよく遊んだ。四つ上のお姉ちゃんがいるけど、彼はなぜか私に懐いてきて私も弟みたいに彼を可愛がっていた。 「夏くんは早く大人になりたいの?」 「うん」 「何で」  彼は少し言葉に詰まった。 時々公園で見かける彼は、だいたい皆とサッカーボールを追いかけている。特にこの年頃の、小四の男の子は、一番やんちゃで駆け回ってる時じゃないだろうか。私なんて『ずっと小学生だったらいいのに』って思ってたくらいだったけど。 「す…」  息が漏れるような声がした。 「す?」 「好きな(ひと)を守りたいからっ」  視線をそらせて頬を真っ赤にしながら、小学生らしくない大人びた言葉を口にする。ちょっぴり背伸びした真っ直ぐな気持ちが青空みたいに清々しくて、私の口元が自然に緩んだ。 「そっか。その女の子は幸せだね」 「…ホントにそう思う?」 「うん。夏くんが幸せにしてあげてね」  私がそう言うと、彼はにっと笑った。 「わかった! 俺が幸せにしてやる」  私を見上げてまるで宣戦布告のように言い放つと、彼は踵を返してつむじ風みたいに駆けて行った。 …可愛いなぁ どんな子が好きなんだろう 七つも年下の小さな台風は、私の心をほんの少しさざめかせた。真剣な彼の眼差しがとても微笑ましかった。  あれから十年が過ぎた今、彼は私の隣で笑っている。目を輝かせてカードを集めるのに夢中だった少年は、あの日と同じ笑顔で私を腕に抱きしめた。
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