彼女の背には羽を、そして世界は終わりを告げる

2/11
前へ
/11ページ
次へ
 父親はアル中でいつもイライラしてて家族を平気でぶん殴るしろくに家に金を入れないし、母親はどこぞの新興宗教狂いで集会に行っては金をたかられて貢いで、そして兄貴は男だからと母親にこれでもかと甘やかされて世界は自分を中心に回ってるとでも思ってるのか我が儘だし受験に失敗して以来部屋からほとんど出てこないし甘やかされるのは継続しててぶくぶくと縦にも横にも大きくなったし自分の思い通りにならないとその巨体で暴れるようになった。  小さい頃はこれが普通と思っていたけど小学校に通うようになったらすぐに気がついた。  あたしの家は普通じゃないって。  だからみんなが口々に理不尽だって言っていたとき、あたしはずいぶんと冷めた目で見ていた。  世界が理不尽だなんて、そんなの今更だ。  世界は理不尽でクソみたいで最悪だから、あたしは手首を切った。  何度も何度も。  カッターで切って血が流れている間だけは、呼吸が楽になった。  その間だけは何もかもを忘れていられた。  まあ、すぐに興奮は冷めてまたクソみたいな現実が戻ってくるわけだけど。  そんな中で、彼女だけはきれいだった。  彼女だけがきれいだった。  天使みたいにきれいな子。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加