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「……あ。先輩、着きましたよ」  生い茂る緑を抜けた先に広がる景色目を細める。眼下に見える住宅の屋根やビルの屋上は、俺たちが登って来た距離と高さを実感させた。山中に目印になる目立つものを残していくわけにはいかないので、ここの景色の境目を印にしようと決めたんだった。 「うわ~すごい眺め……! あれ、何か落ちてる……え」 「先輩? どうし……あ」  先輩が地面から拾い上げた何かを見た俺たちは、同時に言葉を失った。これが全然知らないものだったら「誰かが落としたんだろうね」と言い合えただろう。しかし、それは俺たちには見覚えのありすぎるもの──青い瞳をした白猫のキーホルダーだった。 「……ここに落ちてたんですね。ずっと気になってたんですよ、どこに落ちたのか」 「……どこに落ちたか? どこで落としたか、じゃなくて?」 「嫌なところついてきますね。そこはスルーしてくださいよ」 「いいから。どういうことなの」  俺が言葉を間違えてしまったとはいえ、意外に鋭いんだな。いや、本当は気付いてほしかったのだ。気付いてほしくて、無意識にああ言ったのだ。 「二か月前ですかね、下見に来たんですよ。ここいいな、ここにしようかなって考えていたら、うっかり足を滑らせちゃいまして。あとは言わなくてもわかると思うんですけど……。まぁ、その時、咄嗟に先輩から預かったキーホルダーを投げていたんです。きっと、この場所を忘れないようにって、体が勝手に動いたんですね。でもよかったです。先輩が見つけてくれて、先輩にちゃんと返すことができたので。約束も果たせましたし。あ、遺体はなんとか回収されてますし、先輩が山を下りるまでは一緒にいますから、安心してください」  一度止めると言いたいことが言えなくなってしまいそうだったから、先輩が口を挟むスキもないように一気に喋った。はじめは俺をまっすぐ見て話を聞いてくれていたけれど、俺が落ちたと告げたあたりから俯いてしまい、すすり泣く声が聞こえてきた。  本当は、そんな顔をさせたいわけではなかったのに。互いに笑って、景色を眺めたかったのに。そして、俺の手から直接キーホルダーを返したかったのに。二か月前の俺を殴りたくてしょうがない。だが、どれだけ悔やんでも起こってしまった出来事が消えることはないのだ。ならば、たとえ自己満足だったとしても、やはり先輩にはすべてを伝えたかった。じゃないと、俺はきっと成仏できない。 「そろそろ下りましょうか」  俺の言葉に、先輩は小さくうなずいた。
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