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向かいの席のエリクアがグラスを差し出す。クレアは近くのワインを手に取るとそのグラスに注いだ。
「返杯だ。グラスを持て」
「私はまだ仕事が……」
「大丈夫だ。変わりはいる」
エリクアに言われてクレアは仕方なくグラスを手に取った。
クレアがアルコールに弱いことは知っていた。席に着いたことに喜んだ国王やリュートからもワインを注がれている。
水差しからグラスに水を注いでサラサラと薬を入れた。クレアの側にそのグラスを置くとワインを飲みながら何度もその水を飲んでいるのを確認した。
「クレア、そろそろ部屋に帰るよ。送ってもらってもいいかな?」
声を掛けると、「侍女を呼んでこよう」と立ち上がった。アルコールに弱いクレアは赤い顔をして少しふらついた。
「いいよ。クレアが送って。そのまま部屋に戻っていいから」
僕の世話は従者ではなく、侍女がしている。あの事件以来男性は親しい人間以外近づけていない。
「クレアも大分顔が赤いよ」
水の入ったグラスを差し出すとクレアは、「そうだな。大分熱い」と言って一気にグラスの水を飲み干した。
「部屋まで送ります」
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