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沐浴着を着ていることは多いが、今はひとりだ。裸のまま広い湯船で手足を伸ばした。馬車に揺られて酔いで吐き気がしていたが、こうして湯に浸かるとほっとする。癖のある黒髪は濡れると余計に癖が目立つ。ナーシャもまだ片づけがあるし、あまり待たせないように急いで着替えてタオルを頭に乗せたまま浴室から出た。
「ナーシャ?」
ドアを少しだけ開けて廊下に声を掛けると、ナーシャ以外の声が聞こえた。
「リュクア様、こんなに急いで出て来なくてもよかったのですよ」
ナーシャが慌てて僕の頭のタオルを取った。水がまだぽたぽたと落ちている。新しいタオルで僕の髪を覆った。
「リュクア様。ご無事の帰国、安心しました。では、失礼します」
僕と入れ違いで浴室に入って行き、内側から鍵をかける音がした。
あからさまに僕を避けているのが分かる。少しくらい話をしてもいいと思うのに。
「……クレアが待っていたんだね」
「先ほど来られて、リュクア様が入浴中だと言ったら一緒に持っていてくださったんです。他の兵士のお断りもしてくれました」
「そうなんだ。明日、お礼を伝えておいて」
「はい」
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