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『カシャーン』と金属が床に落ちる音がする。さっきまで僕を襲っていた男が床を転げまわっている。噴き出した赤黒い液体が床に広がって、開いたドアから差し込んだ光が遮られた。
「リュクアッ、リュクアッ」
揺すられて、「クレア」とその名前を呼ぶと自身が羽織っていたマントを僕にかぶせて抱き上げた。
「リュクア様、クレア様、すぐに医務室へ」
「嫌だ。クレア」
倉庫の中に駆け込んだ衛兵がクレアの代わりに僕を抱き上げようとしたが、クレアにぎゅっと抱き着いた。
「ごめん。リュクア。私では医務室までは運べない」
倉庫から出たクレアは僕を衛兵に渡した。
明るい日差しが照らす。その頬には血しぶきが付いている。明るい茶色の髪にもそれはべったり付いている。
「大丈夫。一緒に行くから」
クレアは僕の頭を撫でた。
フッと意識が遠のいた。
次に目が覚めると医務室のベッドに寝かされていて、心配そうに母と長兄のリュートが見つめていた。
「俺が分かるか、リュクア?」
「……リュート兄様です」
声が枯れている。叫んだせいで声帯を痛めてしまったのだろう。
「痛いところは無いか?」
「あちこち痛い。頭と手と足も痛い」
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