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誘惑の香りという名前の紅茶は、『紅茶を好きになって』という意味だ。苦みが少なく、飲みやすい口当たりでシュリベリアでは有名な茶葉だ。
「お菓子をどうぞ」
エッテに最近リリアに持ち込まれたクリームがたっぷり乗ったケーキを差し出された。
「ありがとう。でも、食べすぎたみたいで……」
胃の辺りが気持ち悪い。
吐き気まではしないがどうも調子が悪い。エッテに、「僕の分も食べて」というと喜んで口に運んだ。
「具合が悪いのならガガルフに診てもらいなさい」
「ええ。まだ帰国の疲れが残っているんだと思います」
「シュリベリアでも具合が悪かったのですから、しっかり診てもらってね」
「はい。ご心配をおかけします」
僕が返事をすると同時に、「レイッ」と慌てたリュートの声がした。
振り返るとリュートがレイを抱き上げて庭からテラスに向かって行くのが見えた。その後をクレアが追いかけて行った。
「何かあったのかしら?」
母も立ち上がって心配そうに見つめる。
しばらくして、クレアが戻ってくると、「心配はいりません。お茶会を続けてください」と伝えに来た。
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