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秘密基地
庄司と翔太が虫取りに来ている公園は都会にしてはそれなりの広さがあった。春は桜の名所として愛され、桜が終わるとツツジが咲き、次は紫陽花だ。手入れが行き届き過ぎているのだろうか、時間帯のせいなのだろうか、先程のバッタ以外にはめぼしい虫は見つからなかった。
「翔太、そろそろ帰らないか?パパは暑くて倒れそうだ」と庄司は言い、大きく息を吐いた。
庄司が上を見上げると、太陽が堂々と大空に君臨していた。頬から汗が伝り、雫となって地面に吸い込まれていった。庄司はそんな言葉を口にしながらも、視線は周囲の草むら、木の根元などに虫のいそうな場所に向けられていた。
「ヤダ。もう1匹、捕まえるまで帰らない」と翔太は首を降った。
次の瞬間、トンボが華麗なスピードで2人の間をすり抜けて行った。
2人は顔を見合わせ、トンボに向かって駆け出して行った。しかし数分もしない内に庄司はへたり込んでしまったし、翔太もトンボを見失ってしまい、肩を落として庄司の所へ戻って来た。
「トンボ、速いな」と庄司は言った。もう顔を上げる元気さえ無かった。
「超速い」そう翔太はボソボソと答えた。
「知ってるか。虫の中ではトンボが一番速く飛ぶんだぜ」
「どうりで捕まらない訳だぜ」
庄司は公園を見回した。清潔で綺麗な公園。花は咲くし、芝生や樹木の手入れも行き届いている。文句のつけようが無い。でも、ここは人工的過ぎると感じた。花が咲き、木が茂っていてもここには自然が無い、と。
「なあ。翔太。俺の秘密基地、行かないか?」
「秘密基地?」と翔太は言った。少年らしい言葉に目が輝いていた。
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