「ただいま」を君に

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「ただいま」を君に

「ただいまー」 「お帰り、圭太」 「あれ、今日は早いんだ」 「特別な日だからな」 「へへっ」  その笑顔は無邪気で、俺に罪悪感と優越感を抱かせる。幸福感は、言うまでもない。  いつもは俺が「ただいま」を言うことが多いけど、誕生日の時ぐらいは出迎えてやりたかった。肉がたっぷりのビーフシチューは、昨日から準備しておいた。 「んー、美味そうな匂いっ」  手洗いとうがいを済ませた圭太は、キッチンに飲み物を取りにきて目を輝かせた。 「奨ちゃんのも、コーヒー足しといた」 「お、サンキュ」  自分のだけじゃなくて俺のコップにも注いでくれるなんて、かわいいじゃないか。「お帰り」と「ただいま」を毎日言える関係。長年の付き合いから、言わなくても通じることも多い。傍から見れば同棲だが、肝心のことが欠けている。  俺はいまだ、彼に想いを告げていない。
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