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「お久しぶりでごじゃりまする」  グラソンに連れられて現れたのは占い師のミコト。年齢不詳の婆さんだ。玄武の子孫だというから長生きしてるのだろう。毎年の年始にその年の吉凶を占う時しか顔を会わせたことはない。ぼさぼさの白髪頭に背中を曲げながら、あちこちに杖を突きまくっている。なんでも【気】が感じられる場所を見定めているらしい。 「うぅむ。おぉうう……ぬぬぬぉうぉう……ほっほ」  何やらぶつぶつ掛け声を発しながらしばらく舞をまったあとでキョエ~と叫び、真面目な顔で俺の前に立つ。大丈夫なのか? 「さて。吉がでましたぞ。それも南でごじゃりまする。南に行きなされ」 「南だと?」 「はい。常夏の国フレムベルジュでごじゃりまする。そこから運命が回り始める事でしょう」 「ほぉ。フレムベルジュか。行ったことがないな」 「お待ちください。イスベルク様。南は遠すぎます。灼熱の地を渡らないといけません。おやめください。危険すぎます」  グラソンが慌てだすのが面白い。俺は国境沿いの戦いには身を投じて来たが、この地を大きく離れたことがないのだ。基本的に俺たちは自ら争いを仕掛けて他国に攻め入ることはない。仕掛けてきたら叩き潰すだけだがな。 「南ですか? 暑いんでしょうね?」  武闘稽古の合間にユージナルが聞いてきた。どうやら俺が吉凶を占ったってことは側近たちには筒抜けになっているようだ。占いなんて信じてないはずの貴方が珍しいことするんですね~なんて言うものだから内容を教えてやった。 「いやあ。でもグラソン様の気持ちもわかりますよ。イスベルク様ったら自分の事にも他の事にも興味なさすぎだから。これじゃあダメだってなったんでしょうね」 「なんだそれは。俺だって興味があるものくらい……」  べつにないな。興味か。国を護ることぐらいしか考えてなかったな。後は強くなること。興味ってなんだろうか。戦う事?いやもう戦争は悲劇しか産まない。俺はもう平和な国を作っていきたいんだ。 「ほらね。即答できないでしょ? なんかないんですか? やってみたいこととか」  やってみたいことか。なるほど、それなら……。 「おい。着替えを用意しろ。南へいくぞ」 「へ? ……ぷっくくく。はい。わかりました!」  今気づいた。俺は旅行らしいことはしたことがない。 ~~~~~~~~~~~~~ 明日もイスベルクの話しです。 「俺の話しをもう少し付き合ってくれ。明日の12時にまた会おう」
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