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「あぁん? なんか文句があるのか?」  ボォッと炎を手から出したヴァンが僕の服の裾を燃やした。 「やだっ! 熱いっ。やめてよ!」  急いで裾をはたいて火を消すと慌てる僕の姿を見たヴァンが笑い転げる。 「あ~はははっ」 「このバカ! 僕の服にまで火の粉が飛ぶだろうが!」  グロウがヴァンを投げ飛ばした。 「何しやがるんだ!」 「うるさいっ。お前は野蛮なんだよ」 「はあ?俺のどこが野蛮なんだよ!グロウこそ皆になんて呼ばれてるか知ってるのか?飾り立てるだけのギンギラ王子のくせに」 「おいっ。呼び捨てにするな!僕の方が年上だぞ」 「ふん!数か月しか違わねえじゃねえか!」 「それでも僕が兄だ。兄上と呼べ!」  父王には沢山の側室がいる。どの兄弟も皆母親が違うのだ。そのため同じ時期に身ごもった場合はどちらが先に産むかで争いごとが起きる。産んだ後もマウントの取り合いが続くのだ。 「うるさいうるさいっ!」  ヴァンが炎をグロウに投げつける。 「こらっ!新調したばかりの服なんだぞっ。よくも焦がしてくれたな!」 火柱があがり兄弟げんかが始まった隙に僕は逃げ出す。こんなのは日常茶飯事だ。物陰に隠れるようにして僕は火傷の箇所に回復魔法をかける。火属性以外の魔法が使えることは周りには内緒だ。母さまから他者にバレたらもっとひどい目に合うかもしれないと誰にも言わない様に約束させられた。もう嫌だ。母さま。僕も母さまのところに逝きたい。  ふいに大広間の方が騒がしくなった。今日のお客様が来たのだろうか? 皆が騒ぐほどの方なのだろう。だが今の自分は裾が燃えた薄汚れた服だ。とても人前にでれらるような姿ではない。そっと吹き抜けの階段を登り2階から広間を見下ろす。そこには銀色の髪に軍服姿の男性が居た。 「母さまと同じ髪の色だ。なんて綺麗なんだろう」  しばらく見惚れていると男性が疲れている様子に気づいた。きっと母と同じ北の国からいらしたのだろう。南国の熱さにやられたのかもしれない。周囲に何か告げるとこちらに向かって階段を登り始めた。 「え? こちらに来る。どうしよう」  迷うと同時に広間の端にヴァンとグロウが見えた。互いに喧嘩に夢中でお客様が到着したのに気付いていない。グロウの服がところどころ焦げて装飾が燃えている。これには頭に血が上っているのだろうな。そう思った瞬間、グロウの放つ火花がゴォッと膨れ上がった。業火だ! ヴァンがそれを避ける。避けた業火はこちらに飛んできた。  お客様の護衛が業火を氷の壁で遮断する。凄い。さすがだ。だがその衝撃でお客様の身体が揺らぐ。 「ダメだ! 危ないっ」  僕はお客様を庇い階段から転げ落ちた。激しい衝撃が後頭部に走る。  ああ。最後にこんな綺麗な方を助けることが出来て良かった………………って? 痛ってぇな。あれ? ここどこだ? お腹減ったなあ。コンビニのシュークリームはどこだ? なんでこんなに頭がいてえ……のかな?
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