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3-1 小説の中の人
俺が読んでいた小説。幻想奇談シリーズはオムニバス形式でいくつもの単独な話が書かれていてそれが最終的にひとつにまとまっていくという作風だった。その中のひとつに炎の国で虐げられる皇子の話や、また別の話として北の氷の国の冷酷な皇太子イスベルクの話も載っていた。
これって。幻想奇談の小説の中の世界って事? わわわ。ひょっとして俺って「中の人」になっちゃったの? ほらよくある「〇〇の中にいる人」って言うやつ。
こうしていても徐々にルミエールの記憶と俺の陽向としての記憶が融合していく。
小説の中のルミエールってさ。炎魔法が使える父親や兄達に憧れてたんだな。だから疎まれて気弱になっていったみたい。物語の内容を知ってる今なら外の世界を知らなかったせいだと思う。屋敷に閉じこもって本ばかり読んでたから知識があるのに経験値が0に近い。魔力量も誰よりも多いのに炎属性だけがまともに使えなかったんだ。この国は炎の国だ。炎魔法が使えない者に対しての風当たりは強い。父王からも忘れられた存在となり、絶望したルミエールは魔力が暴走し国を滅ぼしてしまうってバットエンドのお話だった。
ひゃあ。俺ってヤバかったの? あのまま行っていたらこの国が失くなってた? 気付いて良かった。さて、これからどうするかな? 前世の俺は腕に自信があったが骨と皮の今の身体じゃ戦えないだろな。
「く、くくく。ルミエールは面白いな」
傍で座っていたイスベルクが急に笑い出す。
「ほへ? 何がですか?」
「ふははは。百面相していたぞ」
ユージナルも笑顔でいる。しまった。考え事に集中していたのが顔に出ていたようだ。
「すみません。ちょっと考え事をしていたので」
「やはり、俺の言葉を聞いてなかったのだな?」
苦笑するイスベルク。くそっ。俺と違ってイケメンだな。なんかオーラが凄い。
「はい。えっと、どんなお話でしょう?」
「まずは俺を助けようとしてくれた礼を言おう」
イスベルクが軽く頭をさげた。うっわー。顔だけでなく紳士なの? 欠点なんてないんじゃない? 俺みたいな格下にもお礼言ってくれるんだ? 噂はあてにならいないね。だってこの人冷酷な……。
「ぁ。いえ。その。とんでもないです」
なんだか申し訳ない気がした。だって俺が勝手に突っ込んで階段から落ちたんだもの。俺が居なくてもユージナルが助けたかもしれなかったし。代わりに落ちてケガして看病までしてもらって。なんか俺カッコ悪いしなぁ。
「……珍しい。貴方が頭を下げるなんて……」
ユージナルが瞠目しながらイスベルクを見ている。
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この続きは本日18時更新。
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