山神様のキノコ

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 山菜汁が出来上がるまで、老婆は身の上話をしてくれた。  老婆はおギンという名前で、村の決まりで70歳になった年に山に上った。いわゆる姥捨てだ。しかし、おギンは生き延びてしまった。 「……そうですか。まだ山上りがある村もあるとですね。うちの村では、もう婆ちゃんの代に山上りはなくなったとですよ。でも、どうしてこんな山奥におるとですか?」  タエはおギンを見て首を傾げた。そんなタエを見ておギンは何かに耐えるように強めに目を瞑って首を左右に振った。 「あんたも村の人間じゃ。村の者の目の厳しさを知っとるじゃろ? 他のもんと違うたら、おらだけでなく家の者も何をされるかわかったもんじゃない。だけぇ、誰にも見つからんよう山奥におるとよ」 「…………すんません」  タエは呟くように謝り俯いてしまった。それを見て、おギンは優しくタエの肩に手を置いて言った。 「あんたのことは責めとらんけぇ、顔を上げんさい」  タエがゆっくりと顔を上げると、おギンは微笑んで話を続けた。 「山奥もよかことがあるんよ。……ここだけの話じゃが、山奥じゃないと採れない、この世の物とは思えんくらい美味かキノコがあるんじゃ」 「きのこ?」 「そうじゃ、特別なキノコじゃ」  興味深げな目を向けてきたタエに、おギンは笑みを深くする。 「運が良ければ、あんたも食べれるかもしれん。──おっ、そろそろ鍋がよか頃合いじゃ」  タエは何か聞きたそうに口を開けたが、ちょうどタエの腹がぐぅと鳴り、おギンの笑い声がそれを遮った。
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