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山の天候が回復したのは、タエがおギンの小屋に滞在してから三日目の朝だった。
朝、目を覚ましたタエは、おギンがいないことに気がついた。タエは狭い小屋の中をぐるりと見渡したが、やはりおギンはいない。
タエは腕を組み暫し考え込んだ。
(おギンさん、どこに行っちまったんだろう? お礼も言わずに出ていくわけにはいかんし、どうしたもんやら……少し、外を見てみるか?)
「よしっ!」
タエは顔を上げ立ち上がった。土間へと下りて戸へ手をかけようとした時だった。
ガタッ……ガタッ……
戸が鈍い音を立てて開いたのだ。突然のことに驚いたタエが正面を見ると、籠を抱えたおギンが立っていた。
「あぁタエさん、おはようさん」
ぽかんと突っ立っているタエにおギンは目尻に皺を寄せながら声をかけた。
「あっ……おはようございます!」
慌てて挨拶を返すタエをおギンは愉快そうに見つめながら、籠の中身を見せるように差し出してきた。
「ほら、見んさい。特別なキノコが生えとったんじゃ。ほんに、タエさんは運がよかね」
籠の中には、滑り気がある光沢を放った赤茶色をしたこぶし大のキノコが3つ入っていた。
「朝餉にでもしようか。囲炉裏で焼いてやるけぇ。うまかよ〜」
そう言うと、おギンは口角を上げ、小屋の中へと入っていった。
木の枝で作った串に刺したキノコが囲炉裏で炙られ、芳ばしい匂いが小屋の中に漂う。それに匂いにつられてタエの腹がぐぅとなった。
「ははっ! 腹が減っとるなぁ」
「ほんに恥ずかしい……」
おギンがタエの腹の音を聞いて笑い声を上げると、タエは赤くなって下をむいた。
「悪いことじゃなかけ、そんな恥ずかしがりなさんな。──ほらっ! そろそろよかよ」
おギンはこんがりと焼き上がったキノコを、タエに差し出した。初めて見るキノコに、タエが固まっていると、おギンがキノコを割いて口に放りこんで見せた。タエが目を丸くしておギンを見ると、キノコを飲み込んだおギンがにっと笑った。
「心配せんでよか。毒はなかよ」
それを見て、タエはキノコを恐る恐る口に運んだ。小さく齧り、少し咀嚼すると、目を見開いた。
「美味しいっ! こんなに美味しかもんは初めてじゃ……」
タエが驚きの声を上げ、黙々とキノコを口に運び始めた。おギンはそんなタエを刺す様にじっと見つめていた。
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