山神様のキノコ

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 夫の安吉も二人の息子もタエが帰ってきたことを喜ぶでもなく、怒るでもなく、淡々と夕食を摂っている。そんな中、姑のお松だけが、ずっとタエに悪態をついていた。そんな四人を横目に見ながら、タエは小さくため息をついた。  タエはこの家で皆が食事を摂り終えてからしか食事を摂れない。つまり、タエの口に入るのは残り物だけだ。ギリギリの食料状態で、嫁に食わせるようなものはないということだ。タエは手元の繕い物へと視線を落とした。  (おギンさんのところはよかったなぁ……。食事は美味しかったし、──あのキノコも……)  タエはよだれが溢れた口元を手で拭った。  (あぁ、食べたい……あのキノコを食べたい……)  タエの手元が震える。もう繕い物ができる状態ではなかった。  (──キノコ、キノコ、キノコ、キノコ……あぁ、駄目だ。ここは村だ。目立っちゃいかん……耐えろ、耐えろ……)  しばらく身を固くし、震えが収まるのを待った。  しかし、そんなタエの異常な様子に気づく者は誰もいなかった。
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