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朝、日が昇ると、タエはいつものように一番に動き出し、水を汲み、朝餉を用意していた。しかし、いつもとは違い、時々虚ろな目を手元に落とす。
(あぁ、あのキノコが食べたい……)
そんなタエの様子に、水汲みに来ていた隣人のキヨが声をかけてきた。
「タエさん、どうした? 気分が悪かとね?」
キヨの声に、弾かれたように顔を上げたタエは、力強く顔を左右に振った。
「いや、何でもなかよ。ちと、考え事ばしとっただけや」
「そならよかけど……」
キヨは心配そうに見つめてきたので、タエは慌てて話題を変えた。
「キヨさん、だいぶ腹がデカくなったね。──おや? 少し下がってきたんじゃなかね?」
タエはキヨの腹に目を向けた。キヨの腹には赤子が宿っている。
「わかるか? そろそろなんや……」
そう言いながら、キヨは愛おしそうに自分の腹を撫でた。
「──女の子やったらいいなぁ……」
キヨがぽつりと呟いた。キヨには既に男児が二人いる。キヨの家にも余裕はないのだ。跡取りとの長子とその予備がいる以上、もう男児はいらない。いざとなったら売れる女児以外は歓迎されないのだ。もし男児だった場合は神様に返すことになる。
「そうやなぁ……」
タエはどこか遠くを見るようにキヨの腹を見て、静かに返事をした。
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