魔法が効かない私に魔法をかけた彼。

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「これ、お先にどうぞ」 「……」 「あれ、もしかしてもう読んだ?」 「いえ、ありがとうございます」 まさか、譲ってくれるなんて……。 私はスリ師のような素早さで、彼の手から本を奪い取った。 やっぱなしと言っても、絶対に返すまい。そんな意思をこめてぎゅっと胸に抱くと、彼は苦笑していた。 ちょっとばかり、興奮しすぎたかもしれない。 「じゃ、じゃあね」 そう言って彼は立ち去ろうとしたが、このままだと無礼な変人になってしまう。 変人はいいとしても無礼と思われるのはいただけない。 いや、私が完全に悪いのだけれど。 「あ、あの!」 私はとっさに声をかけた。本と向き合ってきた毎日だから、人の目を見てまともに会話しようとするのは、かなり久しぶりだ。 「ごめんなさい」 「え、何が?」 「そ、そのー、奪っちゃって」 「いや、僕の意思で譲っただけだけど……」
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