1人が本棚に入れています
本棚に追加
「これ、お先にどうぞ」
「……」
「あれ、もしかしてもう読んだ?」
「いえ、ありがとうございます」
まさか、譲ってくれるなんて……。
私はスリ師のような素早さで、彼の手から本を奪い取った。
やっぱなしと言っても、絶対に返すまい。そんな意思をこめてぎゅっと胸に抱くと、彼は苦笑していた。
ちょっとばかり、興奮しすぎたかもしれない。
「じゃ、じゃあね」
そう言って彼は立ち去ろうとしたが、このままだと無礼な変人になってしまう。
変人はいいとしても無礼と思われるのはいただけない。
いや、私が完全に悪いのだけれど。
「あ、あの!」
私はとっさに声をかけた。本と向き合ってきた毎日だから、人の目を見てまともに会話しようとするのは、かなり久しぶりだ。
「ごめんなさい」
「え、何が?」
「そ、そのー、奪っちゃって」
「いや、僕の意思で譲っただけだけど……」
最初のコメントを投稿しよう!