帰還の彼方

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 父、母、僕、妹の四人分の料理が食卓に並べられた。リビングのソファーでスマホをいじっている妹に向かって、僕は夕飯の準備ができたことを告げる。 「涼花、ご飯できたぞ!」 「…………」  やはり、僕の呼びかけに返事をしてくれない。二人でいる時に無視されるよりも、両親の前で無視される方が余計に堪える。 「涼花、ご飯できたわよ!」 「はーい」  母の呼びかけには素直に返事をする。僕への当て付けだろうか? お前のことだけを拒絶しているんだぞ、という意思表示にも思える。  妹は食卓についても、中々スマホの画面から目を離そうとしない。見かねた父が、そんな妹に軽く注意をする。 「涼花、食事中にスマホはやめなさい! 一体何を見てるんだ?」  父の言葉に、妹は黙ってスマホの画面を差し出した。何故だか急に、妹の鼻を啜る音が聞こえた。風邪でも引いたのだろうか? 「涼花、これ……」 「うん。家族写真! さっきお兄ちゃんの部屋に飾ってあったのをカメラで撮った。いい写真だよね」 「……ああ、そうだな」  そういえば先程、大きな溜息を吐きながら写真立ての家族写真をスマホで撮影していたが、一体何をしているのだろう、と思った。家族写真なんて、これから先いくらでも一緒に撮れるのに。勿論、妹の反抗期が収まればの話だが。 「うっ、……うぅ……」  父と妹のやり取りを聞いていた母が突然泣き出した。よく見ると、妹も僕のすぐ隣で涙を零していた。父は、両目を指で押さえて額に皺を寄せていた。 「ちょっと母さん、どうしたんだよ? 涼花も何で泣いてるんだよ?」  僕の言葉に、またしても二人は返事をしてくれない。
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