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「あーあ、お兄ちゃんに会いたいなぁ」
妹がポツリと呟く。いや、すぐ隣にいますが?
「涼花はお兄ちゃん子だったもんね。お兄ちゃん、お兄ちゃんって後付いて回ってさ」
それも遠い過去のように思えた。ここまで存在を無視されるようになるとは、少し前までは想像もできなかった。
「でも……それも今日までにしましょうね!」
「えっ? 母さん、それってどういうこと? 涼花はとっくに兄離れできてるよ! 僕が寂しさを感じるぐらいには」
「……私、お兄ちゃんのこと、忘れたくない!」
「忘れる必要はないの! ただ、良い思い出にしましょう。今日で私たち三人は前を向きましょう!」
「……母さん、一体何言ってるんだよ?」
「もう涼介はいないんだから、いい加減私たちはあの子の死を受け入れなければいけない!」
「…………僕の死?」
母は決してふざけて『死』なんてフレーズを口にするような人ではない。言い換えるとそれは、母の言葉が真実だということだ。
「……ちょっと、涼花」
以前、愛しさのあまりよくちょっかいをかけていた妹の肩に触れようとしたら、体をすり抜けてしまった。僕は妹の少し怒った顔が好きで、しょっちゅうふざけて肩をタッチしていたのだが、妹は再び僕に怒った顔を返してくれることはなかった。
僕は、自分の置かれている状況を理解した。僕は既に死んでいて、家族の目に僕の姿は映っていない。
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