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「本当に突然だったからな、私たち両親がまだ受け入れられていないんだ。涼花にそれを求めるのは酷ってもんだよ」
父が少し興奮気味の母を諭すような口調で話し始める。
「分かってる。でも、涼介はいつも涼花のことを心配していたから、涼花がいつまでも泣いていたら、涼介が安心して天国に行けない!」
母の言葉を聞いていた妹が泣きじゃくっていた。こんな時、僕はいつも妹を抱き締めていた。「涼花のことは僕が絶対に守る! だから大丈夫だ!」って言って。
僕は、生前と同じように妹を思いっきり抱き締めた。だけど、僕の体は案の定、妹の体をすり抜けてしまった。
居ても立っても居られなくなった僕は、玄関から飛び出した。人に触れることはできなくとも、物に触れることはできていた。それならば、と僕は玄関のチャイムを鳴らして、急いで三人の下へと走った。
妹が、インターフォンのモニターを見つめている。そして、何も映っていないモニターに向かって、話し始めた。
「…………お兄ちゃん?」
妹に僕の姿が見えていないのは明白だった。何故なら僕は今、モニターの前ではなく、妹のすぐ隣にいるのだから。
「お兄ちゃん? お兄ちゃんだよね? 帰ってきたんだよね? お帰り! お帰りお兄ちゃん!」
妹が、僕のいないモニターに向かって言葉を紡ぎ続ける。そんな妹を見て、両親は年甲斐もなく号泣している。
「……ただいま、ただいま涼花!」
「お兄ちゃんお帰り! お帰りお兄ちゃん!」
「涼花ただいま! ただいま涼花!」
涙を流しながら僕の帰宅を歓迎する妹の言葉に、僕はいつまでも返事を続けた。
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