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ホール内は楽団の音楽もやみ、しんと静まり返っていた。
太陽のような緋色のドレスに身をつつむエレノアは、琥珀色の目を大きく見開き、ジェラルドをまっすぐに見据える。
キリッとした紺碧の瞳、すっと通った鼻筋に、艶やかな唇。絹糸のようなさらりとした金色の髪を引き立てているのは、彼が身にまとう金モールの濃紺のジャケットだろう。一国の王太子として見目麗しい姿だ。
それに対してエレノアだって負けてはいない。仮にも王太子の婚約者なのだ。庭園に咲き誇るような勿忘草色の髪はすっきりと結い上げられ、清純さを醸し出している。ぱっちりとした二重の瞳に、ふっくらとした唇も愛らしい。
だというのに、その目だけは鋭くジェラルドを睨みつけていた。
彼女の唇はゆっくりと開く。
「承知いたしました」
スカートの裾をつまみ、淑女の礼をする。
その姿を目にしたとき、母親としっかりと手をつないでいたセシリアの脳内には、誰のものかわからぬ記憶が流れ込んできた。
――エレノアは聖女イライザに毒を盛った。
――エレノアを処刑しろ! 首をはねろ!
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