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イライザが聖女かもしれないという話は、フェルトンの街に来る前にそれとなく家族には伝えた。父親は、そんなセシリアの妄想のような話を、頭の片隅にいれておいてくれたのだ。
ニタリと笑った父親は、セシリアの身体を解放した。
それから十日後。父親たちが戻ってきた。シオンもコンスタッドも、ふたたびフェルトンの街を訪れ、しばらくの間、滞在するとのこと。エレノアが小さく喜んだのをセシリアは見逃さなかった。
「王城は大混乱だったよ」
夕食の席で父親がそう言った。
「ジェラルド殿下とイライザ殿の婚約もまとまっていなかったようですしね。それに、ジェラルド殿下もイライザ殿も、シオン殿下を本当に私の従者だと思っていたのには、笑いが込み上げてきましたよ。近隣諸国の王族の顔すら覚えていないような者が、国のトップにふさわしいとは思えませんがね。この国の行く末は、少し心配ですね」
ははっと笑ったコンスタッドは、そのままエレノアに視線を向けた。するとそれに答えるかのように、エレノアもにっこりと微笑む。
「あと十年、持つか持たないかだろう」
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