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拓斗は優季の前では笑っていた。そして相変わらず庭に出ては綺麗にしようとしている。何かに取り憑かれたようだった。優季が年を取るにつれて会話を無くした二人だったが美郷が旅立ってから会話が増えた。というよりも拓斗が話しかけてきた。優季が拓斗を遠ざけていた頃、美郷は優季によく聞かせていた。『父さんは良く泣く人だから』と笑っていた。優季にとって拓斗が泣く姿を見るのはその時が初めてだった。しかしあの庭で泣いている姿を見て以来、拓斗は涙を見せなかった。優季はそれがまた辛かった。
──父さんは無理をしてる。それは私のため?──
学校に向かう道をぼんやり考えながら優季は歩いた。
「おはよう」
後ろから声がした。声を掛けたのは同じクラスの菜奈央だった。
「あっ、おはよう」
優季は慌てるように返事をする。しばらく学校を休んでいたため久しぶりにクラスメートとの挨拶にドキリとした。
「どう? 少しは元気になった? いろいろ大変だと思うけど……」
「ありがとう。私は大丈夫よ」
「私は?」
菜奈央は聞き返した。彼女はどちらかというと踏み込んで話してくるクラスメートだ。
「ちょっと父さんがね……無理してるっていうか……」
「そっか……」
菜奈央は優季を見ることなく前を見ながら歩いている。優季は今朝の出来事を話した。
「本当はもっと悲しみたいんじゃないかって思うんだけどいつも笑ってる。それがなんか辛くて……」
優季も目を合わさなかった。
「きっと思うところがあるのよ。年明けたらいよいよ受験。そして卒業だし……」
「そうなんだよね。私がいるからって考えたらつい……」
優季はこの先どうなるのだろうと考えながらも言葉が続かず黙りこんだ。菜奈央も優季の歩幅に合わせて何も言わず二人学校に歩を進めた。
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