第一章──

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第一章──

優季(ゆき)……起きろ。朝ごはんだぞ」  拓斗が部屋で寝ている娘の優季に対しドア越しに声を掛けた。突然の声掛けに寝惚け眼で起こされた。  突然、父の呼び掛けに戸惑い部屋から出る優季。 「どうしたの? 父さん」 「見様見真似だがなんとか出来たから一緒に食べよう」  拓斗は笑い掛ける。 「父さん……」  優季に微笑む拓斗だが、優季には普段の父の表情とは違うのがすぐに分かった。 「どうした? 早くしないと学校に遅れるだろ? 今日から行くんだろ?」 「あっ、ありがとう……でも、父さんも仕事あるんだから無理はしないで」 「相変わらずだな……でも父さんは大丈夫だぞ」  優季はダイニングの椅子に座り不格好な目玉焼きの前に対峙した。黄身は破け広がり白身の部分は焦げている。 「なかなか上手く出来ないもんだな」  拓斗はみっともないものしか出せない料理に頭を下げた。 「いつもちゃんとしたものを食べさせてもらってたから美味しくはないと思うけどな」  優季は箸で掬い上げるように口に入れた。 「味、薄いよ……塩コショウとか振ったの?」  しまったという顔をする拓斗。 「あっ、忘れてしまったよ……今日はちゃんと出来なかったな」 「いいよ。そんなの後から振りかければいいだけだから」  優季は少し固いご飯と塩辛い味噌汁を残さず食べた。 「明日は私が作るから」 「馬鹿言え。慣れればもっと上手くなるからお前は今を頑張れ」 「ちゃんと頑張ってるから……大丈夫だから」  そう言い残すと優季は用意をし、学校に向かう準備をした。  ──本当はもっと母さんのことで……── 「行って来ます」  優季は振り返らず家を出た。一人取り残された拓斗は椅子に座ったまま立ち上がれずにそのまま箸を置いた。
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