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みがわり3
わたしはドアのついた業務用食器棚の前で歩みを止めた。ここだ。
わたしは取っ手に手をかけ、ゆっくりと手前に引いた。棚板を取り払った巨大な空間に、一人の少女が胎児のように体を丸め、うずくまっていた。
花那、とわたしはつぶやいた。花那は固く目を閉じ、身体を小刻みに震わせていた。
わたしが花那、と呼びかけると、白い頬がぴくりと動いた。やがて、固く閉じていた瞼がおそるおそる開けられ、薄い茶色の瞳がわたしの姿を捉えた。
「友里菜……」
花那の怯えきった眼が、わたしをみとめて大きく見開かれた。
「そこから、出られる?」
わたしは小声で言った。まだ、安心というわけにはいかない。警戒を解くには安心できる材料があまりに少なすぎる。
「うん……たぶん」
花那はゆっくりと身体を食器棚の外に移動させた。制服のスカートやネクタイに乱れはなく、ソックスや靴にも目立った汚れはない。どうやら誰かと争うような状況には至らぬまま、無事に隠れおおせたらしい。
「ヒロキたちはどこ?……無事なの?」
花那がこわごわと問いを放った。わたしは無言でかぶりを振った。
「駄目。三人とも死んでるわ」
わたしが断ずると、花那は顔を両手で覆ってわっと泣き伏した。
「やっぱり……」
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