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引越
荷物は多い方じゃなかった。ほぼ衣類だ。引越単身パックなるもので運び込まれた俺の家財は、また近々引っ越すのだからあまり荷解きしないほうがいい、と言われている。
既に主を持つ1DKの、荷物置きに使ってるという5畳の部屋を自由に使っていいと聞いていたが、俺の背丈にまで積み上がった荷物が運び込まれると、如何にも狭い。圧迫感に加えて、これからの窮屈そうな日々を想像すると、現実逃避でスマホのゲームアプリを開きそうになる。
寸でのところで思い直し、しわになると困るような、仕事で着るスーツやワイシャツが入ってるケースに目星をつける。備え付けのクローゼットの引き戸を開けると、きっちり半分スペースを開けてあった。
これが、今日から始まる同棲生活、だったなら、もっと浮き浮きして晴れ晴れなのだろうか。
北向きの5畳の窓にあるカーテンは閉めっぱなしで埃っぽくて、一度換気でもしようかと手を伸ばした。
…ん? 今、何か、黒というか、茶色というか、あってはならない、あってほしくない、ものが、ちらっと、……、
「うわあああっ」
叫び声と、奴がこちらに飛んできたのは、どちらが先だったろうか。
代表的な家庭内害虫に日曜の昼下がりから出迎えられ、俺はここに来たことを途方もなく後悔していた。
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