発端

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発端

「あの、いつもお世話になってる神崎さんに、折り入ってお願いがありましてー」 そう、囁きながら俺に体を寄せてきた久住さんに、俺はどきりとした。彼女は俺の勤務先の総務部に派遣で来ている女性で、人事部にいる俺とは接点があった。 彼女のファンであろう中高年の社員からは、理乃ちゃん、などと時代的にアウトな呼ばれ方をされており、久住さんはいつもにこやかに誰にでも分け隔てなく丁寧な対応をすることから、社内の手続きに関してはご指名されることが多かった。まあ、その分、女性には敵も多くて、嫌味や陰口なども言われていたが、本人はいつも「ありがとうございまーす」なんて、笑顔で一蹴していた。 俺は、そんな彼女が、気になっていた。 やわらかい笑顔とか、先回りして相手のことを考える親切なとことか、話を聞くときの相槌とか、そう、たぶん、恋に近い感情を持っていたかもしれない。 その久住さんから、お願い事? 聞くしかないでしょう…! 「私と、いっしょに住んでくれませんか」 聞き間違えたかな? 「えっ、あの、え…?!」 会社で、いきなり、告白? いや、付き合ってとかなく、いきなりそこ?! 「突然で驚かれましたよね」 そそそそりゃあ、もう。 「神崎さんの部屋、今月末で退去なんです」 「…え?」
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