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来歴
俺は就職浪人ってのをやってた。しかも2年。消防士になりたかったが、試験は通っても最終面接で落ちた。2年連続で。3年目はどうする、って迷ってたときに、父親が勤める会社のグループ企業で中途採用枠があるが受けるか?って聞かれて、宙ぶらりんな身分に耐えかね、頷いたのだった。
最初は地元の支店に配属されて営業の仕事をやっていたが、突然本社へと異動が出て、しかも人事部に配属された。慣れない仕事、環境、生活。知らなくていい人間関係や力関係。意外と自分には営業が合っていたのだとわかり、それだけでも意味はあったかもしれない。
ずっと実家住まいだったから、家族や友人と離れて、誰も俺を知ることのない土地で暮らすのは初めてだった。会社の借り上げたワンルームを社宅として住んでいたのだが……
「そこが建替になるので、別のところに引っ越していただく必要があったんですけど、私がうっかり」
「ええー…」
「同じワンルームに住んでいた方々は次の社宅を手配してたんですけど、どうしてだか神崎さんだけ抜けてまして」
「そんなことある?」
「だから責任をとって私の部屋を提供しようかと、次が手配できるまでの間」
「いやいやいやいや、だめでしょ、そんなの」
俺が焦ってそう言うと、久住さんは今まで見せたことのない強い目線を向けてきた。
「私、失敗を失敗としたくないんです」
「あー、えーと、そういうのはわかるけど…」
「単刀直入に言います、隠蔽工作に付き合ってください」
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