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あり得ない。掠れた声で呟いた声は、柚野によってかき消された。覆いかぶさってくる巨体に唇を塞がれる。
「んぅ……っ」
何をするんだと背を叩くが、難なく両手を再び頭上に縫い留められた。
そのまま深く口づけられてしまう。歯列を割り、滑り込んでくる舌先。噛みついてやろうかと思ったが、弱い口蓋をなぞられて力が抜ける。逃げる舌を追われ、ぬるりとしたものに絡まれた。肌が粟立つ。そんなものまで感じた。
本当に童貞なのかと疑いたくなるほどキスが上手い。上手く体が動かないせいで、されるがまま。舌を吸われて自分でもビックリするような声が出る。益々視界が潤み、体温が上がった。
息が整わない。角度を変えて更に深く口づけられる。下肢に熱が溜まる口づけに、ごくり、と互いの唾液を嚥下する音が大きく鳴った。
「テメェ……、童貞っての、嘘だな」
「だから嘘じゃないって」
「じゃあなんで、こんなに慣れてんだよっ」
「だって……キスは初めてじゃないし」
童貞だとは言ったけど、キスもしたことがないとは言っていない。そう告げる柚野に、曽田の視線が揺れる。そういえば、そうだったかもしれない。
「俺、昔から凄くモテるんだ」
「……だろーよ」
このルックスで、この体躯。しかも医師免許所持のパイロット様ときた。頭までいいのだ。周りが放っておくはずがない。
「好きじゃなくていいからって言われて何度か付き合ってきたし、押し倒されたことも十回や二十回じゃない」
だけど結局勃たなくて童貞のままなのだと、柚野は告白する。
「嘘つくなよ! 完全に勃ってんじゃねーか!」
「うん。愛は偉大だねー」
「ふっざけんな! 誰が信じるか!」
柚野から表情が消える。初めて見るような表情に、肩が揺れた。
「なんと言おうと、賭けは俺の勝ちだ」
それを言われると何も言えなくなる。賭けに乗ったのは、曽田の意思。今更嘘だと言って逃げるのはルール違反だ。
「っ、……分かったよ! だけど、なんで俺が下なんだよっ。上って話だったろ!」
「でも、体動かないだろう?」
薬のせいで芯を持つ屹立を撫でられ、甘ったるい声が出た。そこに触れるのはズルイと睨むが、柚野は嫣然とするばかりで聞き入れてくれない。それどころか体をずらし、なんの躊躇もなく口に含んだ。
悲鳴にも似た嬌声が散り、利き足が滑らかなシーツを蹴った。初めて舐められるわけでもないのに、あり得ないほど強烈に感じる。声が抑えられない。
息が上がる。のけ反ったまま柚野の口腔に翻弄され、無意識に彼の髪へ両手の指が絡んでいた。
水音を鳴らして貪る柚野に、ほんの微かに残った冷静な部分が、よく同じ男のものを舐められるなと驚く。いや、そもそも男に惚れた時点でそこは別にいいのか。そんな今更どうでもいいことが脳裏を巡った。
「ぁ、っ……ン、ぁ……っ、や、……口、はなせ、っ」
引きずり戻すようにして、快感の波が曽田を襲う。必死に柚野の頭を引き剥がそうとしても、彼は動かない。背を起こして本当にマズイと教えてやるのに、柚野は根元まで咥え込んできつく吸い上げてくる。
せり上がる快感に背を丸め、曽田は奥歯を噛んだ。堪えきれない。我慢ができない。そうされることは初めてではないが、何故だか相手が柚野だと思うと焦りが勝つ。好きでやっているのだから放っておけばいいのに、本当に平気なのかと奇妙な心配が曽田の中で膨らんだ。自分でも自分が分からない。
柚野の舌先が亀頭の裏筋を撫でる。
「ばっ、ばか……っ、おい、……っ、も……イク、って……」
陰嚢を揉まれ亀頭を吸われ、我慢などできずに柚野の頭を抱え込むようにして吐精した。断続的に吐き出される白濁を、柚野が口腔内で受け止める。躊躇なくそれを嚥下し、青臭いだろうに、もっと出せとばかりに吸われた。敏感になっている屹立は震えながら強烈な快感を腰に落とし、両膝が笑う。
「っ、も……出ない、っ、やめ……っ、もう、出ない……って!」
涙声で訴えると、ようやく柚野が口を離してくれた。ぐったりとベッドに横になり、息を整える。早めに主導権を取り戻さねば、体が持たない。
しかし柚野は手慣れたようにジェルとゴムをサイドチェストから取り出し、唖然とする曽田を他所にゴムを指に嵌めてジェルをつける。それを襞に宛がった。
「はぁっ?」
「うつ伏せになる?」
「そういう問題じゃ、っ……ぁ、こ、ら……!」
「力抜いて。大丈夫だから」
何がだ。そう噛みつきたいのに、初めて味わう感覚に声が出ない。内臓を中からかき回されている感覚。これを気持ちいいと思える輩がいるのであれば、尊敬する。山岡は平気なのだろうか。
「あぁ、ここかな」
ほんのわずかな盛り上がり。そこを指の腹で擦られ、ぞわりとしたものが肌を這った。一瞬何が起こったのか分からずにいたが、柚野が執拗にそこばかりを擦るので段々息が上がってくる。快感なのか違和感なのか、まだ判断のつかない奇妙な感覚。しかしそれがとんでもないスピードで曽田を蝕み始め、気づいた頃には視界が完全に潤んでしまっていた。
「やめ、っ……ちょ、待ってって……! ぁ、っ」
「薬のせいで中もトロトロ。可愛い」
「ふざけ……っ、ひ、ぁンンっ」
ぐっと指を折り曲げられて変な声が出る。すぐに口を押えても、柚野は容赦しない。指を二本、執拗にそこだけを擦り上げてくる。待てと言う言葉も、やめろと諫める言葉も完全に濡れていて説得力などなかった。
膝がシーツを蹴る。ジリジリとした熱が全身に広がり、柚野がそこを擦るたびに彼の指を締め付けるようになっていた。
「ふ、ぅ……ぁ、ぅ……っ」
引き締まった体をしならせて、それでもどうにかこの熱を逃がそうとする曽田を、柚野がジッと見つめている。ほどよく日に焼けた肌は健康的で、さきほど自身が散々吸った乳首がツンと尖って突き出されていた。もちろん曽田にそんなつもりはない。どうしても背が浮いてしまうので、勝手にそうなっただけだ。
魅惑的なものが眼下で揺れている。食いつかぬは男の恥、とばかりに柚野が口を開いてほのかに汗ばむそれを吸った。ねっとりと舌を這わせて舐め啜ると、分かりやすく内壁がうねる。
「ち、くしょ……っ、ン、ぁあ……っ」
口ではなんと言おうと体は正直だ。気持ちがいいのだろう、腰も揺れている。柚野は曽田の表情を確認しながら、指をもう一本増やした。痛みはないが圧迫感は増すようで、曽田が薄っすらと目を開く。だが柚野が指を少し強めに擦ると、快感の方が買ってしまうのか甲高い嬌声を上げてわずかに腰を上げた。
柚野は指が抜けないよう気を付けながら、三本の指を根元まで沈めてしまう。曽田は全身真っ赤にして、柚野に負けじと歯を食いしばっていた。もう必死だった。曽田の男の矜持。それが訳も分からぬうちに砕かれようとしている。指が一本増えただけなのに、下肢が熱くて堪らない。自分で扱いてしまいたい。
(冗談じゃ、ねぇ……!)
そんな真似できるか。同じ男の前でこんな痴態を晒しているだけでも憤死しそうなのに、その上で自分を好きだと馬鹿なことを宣わっている奴の前で扱けるか。
(っ、のに……)
苦しい。熱い。もどかしい。身を捩って逃げようにも、奴の指が邪魔をする。動くだけで内壁を擦られて、それがどうしようもなく快感を生んだ。
悔しい。伏せた睫毛の隙間から、そっと眦を伝う雫。体が熱くて堪らないのに、へばり付いた矜持が邪魔をする。腹が立つ。蹴ってやろうか。そうだ。それがいい。怪我をさせない程度に蹴ってしまおう。苛立ちがピークに達して利き足が動いた。だが男を蹴るより先に足首を掴まれてしまう。
「アハハ、本当に可愛いなぁ」
「っ……クソ野郎」
「でも、蹴られるのは嫌だから」
そう言って柚野が背を丸めて再び屹立を口に含んだ。と同時に指を激しく上下させ始める。目を剥いたのは曽田だ。
「ンンンぅ……っ、、ン、ン、ン、っ」
唇を噛んで堪えてはいるが、刺激が強すぎていつまで持つかは分からない。まるで見透かしているかのように、柚野が左手で乳輪を抓んで弄り出す。
「ば、ばかっ、やめ、無理だって、こんな……こ、んな、ぁっ!」
三か所同時に弄られて曽田の声に焦りが滲み、全身で快感を訴えた。待てと言ったところで柚野が聞くわけもない。どこが一番気持ちいいのかなんて、分からない。ただどこもかしこも触れられているところ全てが気持ちいい。
「ここも可愛い……ビクビクしてる」
口を離して根元から勃起したものを舐められ、下腹部が締まった。それを強引に指で押し拡げられて不覚にも二度目の吐精を余儀なくされてしまう。二度目とあって色も薄く量も一度目よりは少ない。が、曽田の吐き出したものは亀頭にキスをしようとしていた柚野の顔にかかり、垂れ流れるものを指ですくって舐め取った。
嫣然と微笑む柚野を正面に、肩で息をしながらそれを見ていた曽田が目を閉じて顔を背ける。
「んなもん、口に入れんな……バカが」
「バカって言われたの久しぶりだなぁ」
「……喜ぶなドバカ」
目をキラキラさせて頬を紅色させることではない。まさかマゾッ気でもあるのか、コイツ。と、嫌な予想を巡らせていた曽田であったが、ジェルを足されて我に返る。
(いやいや、待て、待て待て待てっ。ヤルのは百歩譲って許してやる。でも俺が童貞野郎に突っ込まれるのは、絶対におかしい!)
薬のせいでかなり体はマズイことになっているものの、だとしても矜持が許さない。確かに同性でも問題はないけれど、この形はNOだ。
どうにか体を起こそうとしてみるが、本当に力が入らない。不甲斐ないとはこのことだと奥歯を噛んだ瞬間、両膝を抱え直されて目を瞠った。
「コラ、違反だよ。賭けは俺が勝ったんだから、逃げちゃ駄目だ」
「べ、別に逃げようとしたわけじゃ」
「……本当に?」
笑っているのに目が笑っていない。ゾクっと肌が粟立ち、息を呑む。この男、こんな冷たい表情もできたのか。いい顔をするではないか。
(薄っぺらい笑顔よりずっといいな)
力の入らない指先で柚野の顔に触れる。不思議そうな表情でこちらを見下ろす男に、ニヤリを唇を歪めた。プライドを総動員して利き足を浮かせ、柚野の肩に乗せる。見えやすいように両手で臀部を左右に広げて見せた。
「童貞卒業に一役買ってやるよ。ほら、突っ込め」
「……っ。ズルイな。格好いい」
「俺だからな」
柚野ほどではないが、曽田だって結構モテる。昔から顔だけはいいのだ。相手の女性たちも美人ばかりだった。自分に自信があり、顔もいい。料理も上手い。だから彼女らは遊び相手に曽田を選ぶ。後腐れなさそうなのを、経験則で嗅ぎ分けているのだろう。時々本気で付き合わないかと打診されることもあったが、その手の誘いには全て断ってきた。これからもそれは変わらない。
「ゆっくりやれよ、こっちは俺も初心者だ」
「分かった。頑張ってゆっくりやる」
「その頑張りの三倍はがんば……れ、って。何だ、ソレ」
「うん?」
柚野が手に持つゴムの小箱。そのパッケージに表記されたサイズに目を剥く。海外製のものだ。
「これ? 長谷川さんのおススメ。サイズが同じだから、教えてもらった」
「ふ……っ」
「ふ?」
「ふっざけんなッ! お馬サンかお前は!」
「そう言われても……。これじゃないと、入んないし」
冗談ではない。何がXLだ。しかも海外製の最大サイズである。殺す気か。
(山岡……アイツ、実は肛門裂けてんじゃ……)
可哀想に。今度からもう少し労わってやろう。きっと涙ぐましい努力を重ねているに違いない。
まさか割と最初から順応しているとは思いもしない曽田は、とんでもないサイズの相手をしている可愛い弟分に薄らと涙を浮かべる。
自分も同じ目に遭おうとは。一体なんの因果なのか。
ため息が零れる。どうにかしようにも、どうにもならない。そこは賭けに乗ってしまった自分が悪いのだが、これまでEDだった奴が急に勃つとは思わないだろう。何が愛の力だ。ふざけるなと声を大にして言いたい。
諦めさせたいが妙案が浮かばずにいる中で、両足を抱え直される。
「待て。そのサイズは規格外だ。もっと解さないと、俺の慎ましい尻が死ぬ」
「え? じゃあ、もっと解すね」
そう再び言って入ってきた指三本。そのうち小指を足されて、息苦しさと圧迫感に目を眇めた。痛みがないと言えば噓になる。だが媚薬のお陰でかなり緩和されており、指で前立腺を刺激されると痛みより快感の方が上回った。
くちゅくちゅと襞の奥を擦られるたびに腰が揺れ、息も上がる。快感に目を閉じて薄く開いた唇からか細い嬌声がすり抜けた。
(まっずい……な)
気持ちいい。
(尻ン中まさぐられて気持ちイイとか、俺……終わってんなァ)
そうは言っても、気持ちいいものは気持ちがいい。体が疼くのだから仕方がない。全てを媚薬のせいにして、曽田は腹を括った。こういう時、潔いところは己でも気に入っている部分だ。
「……ごめん、そろそろ限界。多分、ここで入れておかないと……もっと傷つける」
まだデカくなるのか。血の気の引く思いだが、山岡にできて自分にできないわけはないと、曽田は頷いた。腐っても男だ。今更、前言撤回はしない。
(さぁっ、裂けるなら裂けろ、俺の肛門……っ)
ぬるり、薄いゴム一枚を隔てて柚野が中に入ってくる。亀頭部分は難なく入った。息を吐いてその先を受け入れるが、素質の問題なのか割と……いや、結構痛い。これは長谷川のサイズが柚野より小さいわけではなく、山岡の素質でもなく、要は長谷川と柚野の経験値の差なのだが、そんなこと曽田に分かるはずもない。またそんなことを考える余裕もなかった。
「ごめん、痛いよね……」
そう言って柚野が曽田の屹立を扱き、どうにか快感を追わせようとする。曽田は深呼吸しながらか細く伝えた。
「……もっと、……左」
「左? こっち?」
「っ、ぁ……そこ、……イイ、かも」
拡げられた襞は痛いが、そこを擦られると気持ちがいい。屹立に自ら手を伸ばし、柚野にはそっちに集中しろと言う。言われた通り、柚野が奥まで挿入することより曽田に快感を追わせることへ集中し、少し左側を擦った。
「ン、ぅ……、ふぁ……、ぁ」
擦られるたびに淡い快感に鋭さが増し、少しずつだが痛みと快感の天秤が快感の方に傾き始める。
一度快感を掴んでしまえば、こちらのもの。体が媚薬の力を借りて勝手にそちらを追う。徐々に体も弛緩し、快感の方が強くなってくる。無意識に強張っていたものが蕩け、柚野の屹立を更に咥え込んだ。そうであるのに擦られている箇所が気持ちいいからか、曽田に苦痛の色はない。
「ンっ、ぁ……そっち、もっと……強く、擦って」
言われた通り、的確に。そして確実に。柚野が曽田を追い上げてゆく。
「ここ、好き?」
「ンンっ、ぅ、ぁ……、イっ、あぁ、そこっ……いい、ンンぁ、ッ」
「多分……ここも、好きかな」
「ひ、ぁ……っ、ば、バカっ、余計なこと、ンンぅ、ぁ、ああぁっ、や、待て、柚野……っ、それ強い、強いって!」
何故自分よりこの体のイイところが分かるのかと焦る曽田を他所に、柚野が目を細めた。
「もう大丈夫。大体理解した」
「へ?」
何が大丈夫なのかが、サッパリ分からない。
だが、自分の体がマズイことになっているのは直観で分かる。
ゆっくりと、柚野が乱れた前髪をかき上げた。嫣然とする圧倒的な美貌。形の良い唇が蠱惑的に歪み、曽田の足にそっと口づける。
(あ……これ、……オワッタ)
◆ ◆ ◆
「ンぅ……っ、は、ぁ……っ、テメ、い……勝手に、っンン」
視界が揺れる。声が濡れる。体が熱い。
大きく開かれた足の間に男を挟んで、最奥に男根をねじ込まれて泣かされている現実が受け入れがたい。
「泣きながら凄まれても……。凄く可愛いな」
「っ、ざけん、な……、クソ、っ……ん、ぁ、ぁっ、やめろ、そこ、や、め……っ」
上擦った声が掠れ、曽田はきつく眉をひそめて快感に溺れていた。
最奥に届く柚野の切っ先が媚薬によって開花された性感帯を、容赦なく突き上げてくる。前立腺を擦られながら最奥を突かれると、どうしようもなく悦かった。閉じること忘れた唇からは嬌声が溢れ、心もとなさに柚野の体をかき抱く始末。同じ男としてそれが悔しくて爪を立ててやるが、柚野は微苦笑するばかりだ。
耳朶に舌を入れら、奥を突かれる快感とは別のそれが曽田を覆う。悔しいけれど、柚野にされること全てが快感で貪欲に体が奴を求める。内壁を擦られるだけで肌が粟立ち、内腿が小さく震えた。
ついさっきまで童貞だった男だ。それが的確に曽田の性感帯を暴き、曽田の求めるがまま快感を寄こしてくれた。全ては媚薬のせい。きっとそのせい。そう思うのに、体の相性が良すぎて理性が今にも千切れそうだった。
「もっと早くシテいい?」
「ンぁぁっ、あ、ぁ、ンンぅ、っ、イ、あ、イ、ぃ……っ」
「ありがとう、曽田くん。あ、あと……名前で呼んでもいい?」
「は、ぁ? ふざ、っ、ンンっ、ぁ、ズル……っ。ちょ、コラ……っ、そこ、だ、だめだって……ダメ、って、ぇ……」
最奥を押しつぶされる快感に、声が上手く出せない。じわじわせり上がってくる快感が曽田を包み込み、そのまま波が引くことも更に強くなることもない。そこをもっと強く突き上げて欲しいのに、柚野は名前を呼んでいいかと強請るばかりで動く素振りすら見せなかった。
分かってやっている。そのくらいのことは今の曽田でも理解できたが、焦れる体に負けてしまう。コクコクと何度も頷き、いいから動けと腰を揺らした。内壁から伝わる柚野のものもビクビクしていて、今にも果てそうだ。さっきからずっと曽田ばかりでいい加減イケと思ってしまう。
「ありがとう、美喜也くん」
「……美喜也は、やめろ。好きじゃない」
思い出したくもない名前だ。だから曽田は誰にも名前で呼ばせない。二度と、そう呼ばれたくない。
「じゃあ、みぃくん」
「はっ倒すぞ、テメェ……」
「ええ? んー……ぁ、ミキちゃんは? みぃくんもカナリ捨てがたいけど」
「……一万歩譲ってミキと呼ぶことを許してやる」
嬉しそうに顔を綻ばせる柚野に、曽田は目を逸らす。自分の名前一つでそこまで嬉しそうな顔をされるとは思わなっかた。所詮、名前などただの呼称でしかない。
「……名前なんて、どうでもいいだろ」
「それは違う。俺にとって君の名前は特別だ」
ズクリ、腹の底で何かが嫌な音を立てた。誰かの特別になど、なりたくない。特別に思われたくもない。特別なんて甘い顔でほざいておいて、裏では馬鹿な奴だと嘲笑うのだ。そんな醜悪な姿を、曽田は散々見てきた。
「君が好きだよ」
「っ」
「君のことを考えるだけで、幸せになれる」
「や、め」
「愛してる、ミキ」
急に腰を使われ、罵倒することもできない。開いた唇からは、あられもない嬌声。襞はこれ以上ないほどに開き、それでいて美味そうに柚野のものを奥まで咥え込んでいる。
仰け反って喘ぐほど気持ちが悦かった。中央の屹立からはダラダラと白濁が垂れ流れ、柚野に中を抉るように突かれるたび、嬉しそうに震える。これまで何人もの女性を抱いてきたが、こんな快感は知らない。
(気持ち、ぃ……っ、クソ、本当に、イイっ)
柚野が曽田の首筋を吸う。きつく鬱血が残るほど皮膚を吸われ、それがまた快感に変わった。鎖骨を舐められる。そのまま背を丸めて乳首を啜ららると、腰が揺れて甘くイってしまった。柚野のものを締め付け、奴もそろそろキツイのか軽く息を詰める。
理解したと言った通り、柚野は曽田の性感帯を覚えて確実に追い上げてくる。それに抵抗するのも面倒になり、気付けば自分でも中の性感帯を探していた。
「ミキ。こっちとここ、どっちが好き?」
「ふぁっ、ぁ、そこ、ぁ、ぁ、っ、ちがっ、そこ、もっと奥……っ」
「ここ?」
「あぁぁっ、ンっ、そこ、そこ……強く、ぁ、あっ、イイ、っ」
「早くするよ?」
頷くより先。肌と肌の強く打ち合う音が室内に響く。一度覚えたことは忘れない柚野。天才様の児戯はこちらでも徐々に才能を見せ始め、気持ちがいいと泣く曽田を更に高めてゆく。
既に何度かイった体だ。ずっと体に力が入っていたこともあり、そろそろ疲れてきた。体力にはかなりの自信があったが、薬のせいかもしれない。
「も、はや、く……イケ」
「……ん、結構限界。っ、……気持ちイイ。本当に中トロトロ」
「ぅせ、っ……ぁ、ちょ、そこ突くな、またイク、ぁ、イクって、っ……やめろ、ァっ、んんぅ、ぁっ」
「童貞はね、夢見がちなんだよ」
だから一緒にイこうと童貞らしからぬ笑みを浮かべて柚野が言った。誰が一緒に、と睨んだ途端。大きく視界が揺れる。
体を巨体にかき抱かれ、襞がめくれるほど早く強く穿たれた。下腹部に力が入り、それが全身へと伝わって奥歯を噛んだ。声なんて出ない。息を止めた状態でイキそうになる感覚を押しとどめているが、持たずに息を吐き出す。と同時に最奥を突かれて目を閉じた。無意識に柚野へしがみ付き、早くイケと肩に噛みつく。本気で噛んでやりたかったが、フライトのことがちらついてできなかった。こいつはいけ好かないが、乗客に罪はない。
「さっさ、と……イケ、っ、遅漏は、嫌われるぞ、っ」
「はは、それは困ったな」
「ひぁっ、ああぁ、っ、……ばか、ばかばかばかばかっ、くそ、イ、く……イク、っ」
これ以上ないほど柚野の屹立を締め付け、柚野が曽田を強く抱いた。柚野の腹に自身のものを擦り付けて曽田が白濁を散らす。くぐもった声が柚野の首筋に埋めた顔から洩れ、内壁がそうと分かるように蠕動した。
「……っ」
内壁の圧に負けたのか、柚野が短く息を詰めて曽田の髪に顔を寄せる。腹の奥でビクビクしているものがやけにリアルだ。息が整わない。そっと柚野が顔を上げて、口づけてくる。本当にキスだけは上手いなと関心しながら、引いていかない快感に困惑していると、不意に不協和音が室内に鳴り響いた。
柚野の体が震える。抱擁が、何故か縋りつくようなそれへと変化した気がした。
「な、何。なんだ、この音」
「……」
ヒヤリ、柚野の体が冷たい。さっきまであんなに温かったのに、体温が一気に下がったのが触れていて分かった。
「……おい?」
それにしても、かなりひどい音だ。
何の音だろうと思っていると、柚野が体を起こして深く息を吐いた。音はずっと鳴り続けている。柚野は曽田の中から屹立を引き抜き、そのまま自分の荷物からスマートフォンを取り出した。
「……はい。――瀬尾です」
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