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とはいえ平日はテラっちと遊ぶ。ベイソードXのセタップについて延々と、いくらでも議論を交わす。
各ご家庭で経済状況は異なれども、大人からすれば下らないこどものおもちゃ、即ちベイソードXへの投資額などはほとんど変わらないのであるからして。限られた資本拠出でやりくりするため、この幼い経営者達はM&Aにふみきった。
即ちパーツの共有である。
各自大切なパーツは除き、その他をひとつの箱にまとめ、その中から各々ベストなセタップを追求する。これによりチョイスがインポッシブルなセタップがワイドにワイドした。
学童保育にその箱を持ち込む。当たり前だが規則違反である。学童教諭の目を盗み、こそこそと箱を開け、あーでもないこーでもないとパーツを着けては外すアホの子達。
『うひぃ!ボン達やるじゃねぇか!見ろよあの顔!キョロキョロしちゃってよぉ!いーぞーもっとやれー!』
『ボン!ボン!悔い改めなさい!神聖な学び舎でセタップなどと!先生が見ていなくとも私は見ていますよ!』
夏休みとはいえ小学校にオモチャを持ち込むという大それた悪事に胸を昂らせながら、彼等独自の理論により生み出されたサイキョーのセタップは、世間からはややズレたガラパゴスなセタップだったが、
『ばっかボン違うだろ!極振りこそ究極!螺旋のチカラで天を穿け!オマエを信じるアタシを信じろ!』
『いいえボン!そのまま歩むのです!バランス型こそ至高!汎ゆる局面に対応して戦わなければ生き残れない!』
天使と悪魔の魂に炎を灯す程度には情熱的であった。
そうしてパッションにまみれた平日を愉しみ、土曜日の逢瀬に胸をときめかせる。
「キラヤミーがねっ!?つ、つつ、つぎのニチヨウビに、にに、めちゃツヨくなるの!なるんだよっ!」
「うん、イチバンさいごだったからね。シンカできないの気にしてたから、よかったよね」
『おうボン気取ってんじゃねぇ!相手と同じ顔で会話するのが仲良しのコツだぜ!』
『なりません!普段はアホなのに私と話す時は紳士なのねっていうギャップで萌やすのです!』
「みんなとイッショにたたかえないの、かなしんでたから、めちゃシンパイしてたんだ」
「うん、ちょうひっさつわざにも、いれてもらえなかったもんね」
「どれくらいマエからだっけ?」
「……えっと…」
『今だだだー!うちで一緒に確認しようと言えー!二人きりで観賞会と洒落込め!きっとジュースもアイスもエブリシングゴナヘッ!だぜ!』
『そんなはしたない真似をしてはなりません!さりげなくアマプラで過去話見放題である事をアピールするのです!』
言葉は違えど圧せ圧せのプレゼンター達。
しかし、所詮は助言だけの存在。
「……ぅ…」
「う?」
『いけ!』
『ゆけ!』
「ううん……らいしゅうたのしみだね」
『『っかー!もぅ……っかー!!』』
その意気地のなさが、また下世話な天使と悪魔を盛り上げてしまうのだ。
さて、そんな素敵な夏休みもあっという間に過ぎ去り、明日はもう新学期。
少年の心中はいかばかりか。少なくとも表情は暗く、ゴーショットにも覇気がない。
なにしろ教室内にはお互い同性のお友達だらけである。なかなか二人きりでお話なんて訳にはいかない。
まだまだ混ざって遊べる年頃とはいえ、男児と女児の間には、既に目には見えない壁がうっすらと出来上がりつつある。
プリキラの話は土曜日限定ではあるものの、平日でもなんとなく会話するくらいには、せっかく仲良しになっていたのだ。
『でぃやぁからぁ夏休みの間に誘っとけっつったんだよー!』
『気に病む事はありません。土曜日は必ずまた来るのです。挨拶だけは欠かさず交わすのですよ?』
毛ほども役に立たないプレゼンター達。
しかし、そんな天の御使い共とは全く何の関係もなく、奇跡は起こる。
新学期の席替え。
なんと少女が隣の席に座ったのだ。
担任の先生から「前の席に変えますか?」と提案される程度には、少年の身長は低くて。
それを「ぜんぶみえますのでっ!」と固辞する程度には、少年の心は沸き立った。
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