【第一章】I カフェでの日常(ロゼッタ視点)

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*  朝の刻、九。  お店の前の立て看板を裏返すと、近くで待っていたのか常連のお客様などがやって来た。 「いらっしゃいませ」 「おはよう。今日も奥であなたのオススメセットを頼むわ」 「はい!」  ローズガーデンは王都の書店や文房具店が立ち並ぶ落ち着いた文化街の外れにある。客層は貴族や裕福な令嬢が多く、お店でまったりとした時間を過ごしてくれている。簡単なお喋りであればオープンスペースで、恋バナや相談ごとであればしっとりと奥の個室でといった風な棲み分けだ。 「本日のオススメセットはナマカドイチゴのミルフィーユ〜菜園のベリー添え〜に、ダージリンでございます。完熟イチゴの甘味とスッキリとしたダージリンをお楽しみくださいませ」 「まぁ、素敵!」  ドン爺のスイーツに合わせた私の紅茶のセレクトも好評で、カフェの中には穏やかな空気が漂った。とても平和で、心地の良い時間だ。オープンスペースのお客様たちは各々の話題で盛り上がっている。 「ねぇ、聞きまして? また王都連続貴金属盗難事件が発生したんですって。物騒ですわよね」 「あら、私は『真紅の君』がまた貧しい一家を救った話を聞きましてよ。まだまだ王都も捨てたものではありませんわ」 「そんなことより! この新商品のハンドクリーム、使ってみました? 薔薇の香りなんですって!」 (良かった。今日も皆さんの”居場所”を作れています)  私がこのカフェを開いて一年。程々にお店も軌道に乗ってきている。 「ロゼちゃん、3番テーブルに注文っす。ロゼちゃんのフルーツ盛りノンアルカクテルを2つ」 「わかりました」  今のはウェイトレスのバーニー。果樹園の娘で、私と同じくらいの背丈に、ウサギの耳を生やした獣人である。褐色の肌に白いショートカットの髪を揺らしながら店内の様子に目を配ってくれている。 (人が雇えるくらいになって本当に良かったです)  開店から一時間ぐらいすると、お店の裏口から1人の男性がやってくる。全身に鉄の鎧を着た屈強な男性で、顔すらもすっぽりと鎧で覆っている。頭から出た赤い布だけがヒラヒラと自己主張をしているようだ。 「おはようゼンゼ!」 「......はよう」  彼はゼンゼ。このお店の用心棒にして、ドン爺の家族だ。入り口付近にマネキンのように微動だにせず、陣取った。 「きゃあっ! ゼンゼ様よ!」 「今日と凛々しいこと!」 「……。」  無骨さが硬派で良いと一部の派閥からバカウケしているらしい。  何故、カフェに彼のような用心棒が居るのかというと、我がローズガーデンには時折、無粋な乱入者が訪れるからである。  数時間後、ローズガーデンの入り口のドアを乱暴に開けて怒鳴り込んで来た者がいた。 「おい、ここに俺の婚約者が来ているだろ。会わせろ」  
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