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II 狼藉者のジェイル
乱入して来たのは、煌びやかな金の刺繍が入った紺の上着を着た17歳くらいの少年だ。整えられた黒の髪に何名かの連れている従者の姿で、一目で貴族だとわかる。
(穏やかじゃないわ)
彼がお店の奥に向かおうと進むところをゼンゼがすかさず盾になる。バーニーの案内でオープンスペースにいたお客様は奥に避難していただいた。
「聞こえなかったのか、この店に居る俺の婚約者を出せ」
「……。」
「俺はロード家の三男、ジェイルだぞ」
ドン爺が生地を伸ばすのし棒を手にするのを制して、私はジェイルと名乗った少年の前で靴を合わせ、お辞儀をした。優雅に摘んだエプロンの下のスカートが揺れる。
「お初にお目にかかります。ジェイル=ロード様。私はこのローズガーデンのオーナー、ロゼッタでございます。当店に婚約者様がいらっしゃるとのことですが、生憎、当店では個室に入られましたお客様のプライバシーは固くお守りしております」
「女のお前がオーナーな訳がない。俺は知っている。このお店の奥で俺の婚約者のリリアンナが浮気をしているのだろう!」
ジェイル様はゼンゼの鎧に阻まれながら吠えた。リリアンナ様といえば、このお店の常連のお客様だ。今頃奥でお友達の女性とスイーツを楽しまれている頃だろう。
(浮気? 勘違いなら話してもらった方が良いかしら?)
チラリとバーニーの方を見ると、NGサインを返してくれた。どうやら気を利かせてリリアンナ様に確認を取ってきてくれたらしい。
では、邪魔をさせてはならない。
「恐れ入りますが、今は皆様ご歓談の最中ですので、どのような方であっても無粋な真似はお控えください」
ここは店主としてしっかりと態度で表すところだ。しかし、ジェイル様は引かず、こちらに敵意を向けてきた。
「邪魔をするな」
「! 砂がっ!」
この世界にはギ・フ・ト・と呼ばれる力が存在する。神様から気まぐれに与えられると言われており、与えられる力は1人に対し必ず一つだけ。しかし、その力はとても強力なものである。
ゼンゼの拘束の隙間を縫って、ジェイル様の手から砂粒の塊のようなものが私に向かって放たれた。私は咄嗟に身体を引いて身をかわす。
(全部は避けられないっ……!)
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