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プロローグ
サッカーをしているときは、それは、まぁ、当然として。立っているだけで妙に存在感があるのだから、なんとも言えない華がある。持って生まれたスター性というような、そういうもの。
部外者だから浮いている、とか、惚れた欲目、とか、そういうことではなく。単純に事実としての話なのだが、それはそうとして。
――なにしてんだ、あいつ。
放課後に、こんなところで。渡り廊下から見えた背中に、俺は内心で首をひねった。
関係者の名札を下げていようが、顔と名前の知れた有名人だろうが、高校の構内で立ち尽くす姿は、さすがにちょっと不審者だ。
溜息ひとつで渡り廊下を外れ、六月の空の下に足を踏み出す。
あいかわらずの辟易とする蒸し暑さだが、折原が日本に長期滞在をする季節と思うと、そこまで悪くない気がしてくるのだから、なかなか俺も単純にできている。
近づいた背中に声をかけようとした瞬間、折原が振り返った。
「なんだ、先輩か」
「なんだって……」
なんだ、その、安心した半分、落胆したみたいな顔は。
不審を覚えたものの、折原の肩越しに見えた光景に脇に置くことにした。喋りながら遠ざかっていく女子生徒がふたり。たぶん、というか、確実に、折原が見ていたのはそれだろう。
「おまえ、さすがに構内でそれは。……もう二十六なんだし」
「ちょっと」
眉をひそめた俺に、通りづらかっただけだと折原が弁明する。後ろ暗いことなんてなにもありませんよ、と言わんばかりのいつものそれ。
もっとも、誤解を招く行動をするなというだけで、後ろ暗いことがあると疑ったわけではないのだが。
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