390人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぁ」
「ん?」
「好き勝手してるって言ってたけど、まだ気にしてんの? あれ」
場に合わせて、適当に自分を下げた表現をしただけ、だったら、べつにいいのだが。ドイツに拠点を置く現状を「自分の勝手」と表現することがあるので、少し気になったのだ。
――そんなこと言ったら、俺が日本で教師してんのも、俺の勝手だと思うんだけどな。
「ああ、いや、……そういうわけじゃないんですけど」
案の定と言うべきか、ほんの少し困ったように眉を下げる。
「でも、ほら、なんていうのかな。先輩がふつうに生活してる日常に、いきなり一ヶ月ぽんと俺が帰ってきたら、変な意味じゃなく、多少は生活乱すでしょ」
「だから、それは」
べつにいいって言ってるだろ、と続けようとした台詞に、折原の声が被った。話を流す気満々の、からかうようなそれ。
「亜衣ちゃんに言ってましたけど、俺ってかっこいいんですか?」
こいつ、年々、流し方が雑になってるな。主に都合の悪いことの。まぁ、べつに、いいけど。呆れ半分で、おざなりに返事をする。
「はい、はい。かっこいい、かっこいい」
「そこらへんにいない?」
「いない、いない。……って、なに。しつこいな」
「んー、べつに」
パソコンに戻していた視線を向け直すと、なんでもない顔で折原は首を横に振った。
「先輩にもいろんな出会いがあるんだろうなって思っただけ」
最初のコメントを投稿しよう!