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「なぁ」 「ん?」 「好き勝手してるって言ってたけど、まだ気にしてんの? あれ」  場に合わせて、適当に自分を下げた表現をしただけ、だったら、べつにいいのだが。ドイツに拠点を置く現状を「自分の勝手」と表現することがあるので、少し気になったのだ。  ――そんなこと言ったら、俺が日本で教師してんのも、俺の勝手だと思うんだけどな。 「ああ、いや、……そういうわけじゃないんですけど」  案の定と言うべきか、ほんの少し困ったように眉を下げる。 「でも、ほら、なんていうのかな。先輩がふつうに生活してる日常に、いきなり一ヶ月ぽんと俺が帰ってきたら、変な意味じゃなく、多少は生活乱すでしょ」 「だから、それは」  べつにいいって言ってるだろ、と続けようとした台詞に、折原の声が被った。話を流す気満々の、からかうようなそれ。 「亜衣ちゃんに言ってましたけど、俺ってかっこいいんですか?」  こいつ、年々、流し方が雑になってるな。主に都合の悪いことの。まぁ、べつに、いいけど。呆れ半分で、おざなりに返事をする。 「はい、はい。かっこいい、かっこいい」 「そこらへんにいない?」 「いない、いない。……って、なに。しつこいな」 「んー、べつに」  パソコンに戻していた視線を向け直すと、なんでもない顔で折原は首を横に振った。 「先輩にもいろんな出会いがあるんだろうなって思っただけ」
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