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「こういう意味で甘やかすのなんて、俺だけなんだし」 「まぁ、それはそうなんですけど。――あ、片付けてきますね、これ」  いつもの調子に戻して笑い、マグカップを持って立ち上がった折原が、「あ」と小さく声をこぼした。 「やっぱ、ちょっと待って。爪、整えたい」 「おまえ、基本、短いだろ」 「まぁ、そうなんですけど」  とりあえずと流しにカップを置いた折原が、やすりとティッシュを手にまた向かいの席に座る。  あいかわらずマメにできているなと呆れ半分で眺めていると、うつむいたままふっとほほえんだ。 「先輩に触るならちゃんとしたいかな」 「ん」  手を伸ばすと、手元を向いていた顔が上がる。 「やる」 「ええ……、どんな風の吹き回し」 「いっそ、もっと甘やかしてやろうかと思って」  意外だと瞬いた瞳が、面白がる調子で笑った。「じゃあ、お願いしようかな」とためらいなく渡されたやすりを持って、もう片方の手で任された手の甲に触れる。  顔の印象のわりにと表現していいのかはわからないが、しっかりとした大きな手。  ――昔から、手とか足とかデカかったんだよな、こいつ。  大昔、同じ学校に通っていたころ、デカくなるんだろうな、と考えていたことを思い出す。まぁ、本人としてはせめてあと二センチは欲しかったということらしいが。
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